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注文はジェスチャー、筆談で 静寂を楽しむ「会話禁止」カフェ スタッフと手話でやり取りも

産経ニュース / 2024年8月22日 11時34分

各テーブルにはノートが置かれ、筆談ができるようになっている=8月6日午後、大阪市北区

セミの声が外で響く中、ほんのり甘く冷たいグリーンティーをいただく-なんと心地よい空間だろう。〝カフェ激戦区〟の呼び声高い大阪市・中崎町に、店内での会話は一切禁止という一風変わったルールを設けたカフェ「清浄(しょうじょう)」がある。おしゃべりを禁じているのは静寂と自然の音を楽しんでもらうためだけではなく、聴覚障害があるスタッフが働いているためだ。

オープンは今年4月。運営する一般社団法人「Possible」(同市北区)の代表理事、松本晴夏さん(28)は「環境次第で、障害に関係なく働くことができる空間を作りたかった」と語る。

きっかけは、学生時代に旅行で訪れたベトナム・ホイアンで、休憩がてら入った聴覚障害者が働くカフェだ。店内には静けさが広がり、普段は話し声やBGMでかき消されてしまう雨音や足音が鮮明に聞こえ、驚くほどにゆったりと過ごすことができた。

松本さんは「音のデトックスができた。ヨガをしたようにすっきりした感覚だった」と振り返る。メニューを指させば注文が伝わり、何の支障もなかった。接客に障害の有無は関係がないことに気づかされ、日本に持ち帰りたいと考えた。

抹茶や和菓子など日本らしいメニューをそろえた「清浄」。来店客は、会話ができないと説明を受けた後、筆談や指さし、ジェスチャーなどで注文する。至ってシンプル、かつスムーズなやり取りだ。

おしゃべりができない代わりに、各テーブルにはペンとノートがあり、自由に書き込みができる。ノートをめくると、日本語だけでなく、英語や中国語、韓国語、イラストも使って無音の世界を楽しんだようだった。スタッフと手話で〝会話〟ができるのも醍醐味(だいごみ)の一つ。習っている手話を実践する機会を求め、遠方から来店する客も多いという。

カフェに在籍する約10人のスタッフは全員、聴覚障害がある。

3歳の時に中耳炎を患い失聴したというスタッフの水咲(みさき)さん(22)は「接客業への憧れ」から働くことを決めた。音を認識したり、話者の口の動きを読んだりすることができるが、声の判別は困難だ。以前は一般企業に勤めていたが、新型コロナウイルス禍で着用が必須になったマスクによりコミュニケーションが取りづらく、周囲となじめなかったという。

清浄では、調理など店の運営に関するマニュアルを動画で用意するといった働きやすい工夫がされている。スタッフらとも円滑な意思疎通ができているといい、水咲さんは「お客さまに接する時間が一番楽しい。難聴でも接客ができることを広めたい」と笑顔で話す。

松本さんによると清浄は、一般就労を目指すスタッフのトレーニングや接客のスキルアップの場としての活用を想定している。今後はスタッフの人数を増やすとともに、別の形態での飲食店の展開も模索するという。

松本さんは「目新しさだけで支持されるのではなく、ひと息つける『普通のカフェ』としてお客さまに愛される場所を目指したい」と話した。(石橋明日佳)

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