治安維持の歴史とともに歩む「歌」 今も高らかに 警視庁150年
産経ニュース / 2024年6月28日 7時0分
内乱の鎮圧、暴徒化するデモとの対峙(たいじ)…。日本の治安維持を担ってきた警視庁のかたわらには、いつも「歌」があった。「警視庁の歌」、機動隊の「出動の歌」など、時代を超えて今も演奏される楽曲からは、警視庁が歩んだ150年におよぶ治安史の断面がのぞく。(内田優作)
■警視庁の歌
《なり渡る自由の鐘に、盛り上がる平和の力》
この一節から始まる庁歌「警視庁の歌」は、警視庁職員にとって、最もなじみが深い一曲だ。警察学校の式典や異動行事、観閲式などさまざまな場で演奏、歌唱される。発表は昭和24年。内部の公募で集まった153作から警察学校の山口栄巡査の作詞したものが選ばれた。
発表時、職員誌『自警』(24年3月号)に掲載された講評では次点作が「形式が古く、軍歌調に堕する虞(おそれ)」と評されたのに対し、この歌詞は「一般民衆も唱和出来る」と評価された。強権的といわれた戦前の警察を脱し、「民主警察」に移行しようという時代背景がうかがえる。
音楽隊で歌唱を担当する山下毅巡査部長(58)は「前向きに仕事するため、初心に戻ることができる曲」と話す。自身も歌いながら機動隊や警察署勤務時代を思い出すことがしばしば。歌う際は聞き取りやすいようにはっきりと発声するほか、一緒に歌う聴衆の警察関係者が歌詞を思い出しやすいよう、少しだけ早く歌うことも心掛ける。
1、3番が演奏されるのが通例だが、過去には「炎熱の巷の中や、星凍る冬の夜空に…」と厳しい環境でも職務に臨む気概を歌った2番へ愛着を持つ総監もいた。在任中、庁内では通しで演奏されたという。
■機動隊の歌
ときに暴徒鎮圧のため肉弾戦を強いられる機動隊でも、さまざまな曲が隊員を鼓舞してきた。
26年、前身の警視庁予備隊時代に庁内の公募を経て発表されたのが「出動の歌」だ。こちらも作詞は警視庁警察官。《暴力の輩騒げば、輸送車は地軸をゆすり…》という歌詞からは、共産党が武装闘争路線を展開するなど不穏な世相の中、治安を担うことへの自負がにじむ。
「この世を花にするために」と「この道」も欠かせない。学生運動が激化した昭和44年、当時の秦野章警視総監の肝煎りでつくられた。いずれも川内康範さんの作詞、猪俣公章さんの作曲で歌謡曲調。歌手の橋幸夫さんの持ち歌としても知られる。
「この世を花にするために」は山下さんにとっても難しい曲だ。「歌いだしが低いんですね。10日以上前からボイストレーニングをします」
「この道」はかつて、警視庁警察官の結婚式で同僚が新郎新婦を囲み、歌うならわしがあった。今ではそれを知らない警察官も増えたといい、暴力の時代の終わりによって警察官と歌との距離も変わったのかもしれない。
■分列行進曲
警視庁にとって最初の〝大事件〟は西南戦争だった。西郷隆盛ら反乱軍に対し、警視庁は鎮圧のため1万人近くを派遣。分水嶺となった田原坂の戦いを歌ったのが《我は官軍、我が敵は…》の歌詞で知られる「抜刀隊」だ。
現在まで警視庁の観閲式で行進曲として使われている「分列行進曲」は、明治17~22年にフランスから派遣され、陸軍軍楽隊を指導していた音楽家、シャルル・ルルーが抜刀隊などをもとに編曲。山下さんは「都民へ、首都はわれわれが守るから安心してもらいたいという気持ちを込めて演奏する」と、先人と思いを重ねた。
観閲式での演奏は厳しく、金管楽器は寒い中では音が出にくくなるため細心の注意が必要で、「スタミナ配分も難しい」と山下さん。むらなく勇壮なリズムを奏でるために練習を重ねる。
それぞれの曲に警察官たちの成功と苦闘の歴史が刻まれている。曲を聴くと自分たちが前向きに仕事することができると、山下さん。「警視庁は都民国民とともにあるという思いで演奏し、歌っていきたい」と力強く語った。
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