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「部屋が借りられない」1人暮らしの高齢者 苦しい賃貸事情 100歳時代の歩き方

産経ニュース / 2024年9月1日 9時0分

1人暮らしの高齢者が賃貸住宅への入居を断られるケースが後を絶たない。国土交通省の調査によると、大家の約7割が高齢者に住宅を貸すことに拒否感があるという。孤独死などのリスクへの懸念があるとみられる。1人暮らしの高齢者は増加の一途で、対策は急務だ。

東京都内の分譲マンションに賃貸で住んでいた自営業の74歳の男性は昨年6月に妻に先立たれ、1人で暮らしていた。今年4月、部屋の所有者から「売却する」と立ち退きを求められた。男性は不動産会社で部屋を探したが、希望した3つの物件はいずれも断られた。

「都営住宅も条件に合う物件は空きがないようで、もうだめだと思った」

男性は役所に紹介された居住支援法人「高齢者住まい相談室こたつ」(東京都立川市)に駆け込んだ。

居住支援法人は都道府県から指定を受け、住まいの確保が困難な高齢者などの入居を支援する。高齢者住まい相談室こたつは、デイサービスなどを運営する「こたつ生活介護」が平成29年に開設。松田朗室長は「身寄りのない1人暮らしの高齢者の住居探しはハードルが高い」と話す。

1人暮らしの高齢者は令和2年時点で738万人。22年までには1千万人を超えるとの推計もある。国交省の調査によると、高齢者に対して拒否感がある大家は66%。高齢者の入居を制限する理由は「居室内での死亡事故などに対する不安」が約9割と圧倒的に多かった。孤独死のほか、残された物の処理などの懸念もあるとみられる。日本少額短期保険協会の調査では、孤独死で残された物の処理に平均23万7218円、原状回復に平均39万7158円かかるという。

高齢者ならではのハードルもある。高齢者などの住宅探しを支援する、東京都台東区の「家や不動産」の會田雄一代表取締役によると、年金暮らしや歩行困難のため「家賃5万円以内」「1階またはエレベーター付き」など、条件が厳しくなりがちだという。會田さんは「大家さんや管理会社も生活がかかっている。誰が悪いわけではない。高齢者の住まい探しには公的な支援も必要だ」と話す。

冒頭の男性は介護保険制度を利用しておらず、親族もいないため、まず民間の身元保証サービスを利用。見守りサービスがついた家賃債務保証も契約し、部屋を借りることができた。

松田室長は「1人暮らしでもデイサービスやホームヘルパーなど、福祉と緊密につながりを持つことが大切だ。しっかりした見守り体制があれば、大家さんの理解を得られることもある」と話す。

東京都内で賃貸業を営む水澤健一さんは、1人暮らしの90代男性に部屋を貸した経験を持つ。「緊急連絡先が家族で、ヘルパーが毎日訪問するため不安はなかった。今後も見守りサービスなどを活用することで、1人暮らしの高齢者を受け入れていきたい」と話す。

水澤さんは大家仲間と勉強会を開いている。空き部屋の増加が深刻で、高齢者に貸すことに抵抗がない大家も多いそうだ。「身元保証や見守りのサービス、家賃債務保証などの情報を大家と管理会社で共有すれば、高齢者入居への理解も進むだろう」と指摘する。

国は「居住サポート住宅」を新設

高齢者や障害者など要配慮者の住まいの確保を進めるため、国は「住宅セーフティネット法」を改正、来年秋ごろの施行を目指す。

法改正で新設されるのが「居住サポート住宅」だ。居住支援法人がニーズに応じて安否確認や見守り、福祉サービスにつなぐ住宅で、市区町村などが認定する。大家の不安低減などを目的にしている。また、入居者の委託に基づき、居住支援法人が残された物の処理を行うことを推進する。

もともと法では「要配慮者の入居を拒まない住宅(セーフティネット登録住宅)」を設定。大家など賃貸人は国や地方公共団体などによる改修費の補助や融資、家賃を抑えるための補助などが受けられ、入居者は居住支援法人などから入居に関わるサポートを受けられる。しかし補助制度がある自治体はまだ少ない。

高齢者の部屋探しを支援する「R65」(東京都港区)の山本遼代表取締役は「居住支援法人への支援が十分でない。法改正で、高齢者のニーズに合った住宅を確保できるかどうか、注視していきたい」と話している。(本江希望)

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