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源氏物語はどう書き始められたか 謎に包まれた起筆伝説、光る君へと石山寺説に見る紫式部

産経ニュース / 2024年9月7日 12時0分

古典文学の最高傑作とも呼ばれる長編物語はどうやって書き始められたのか。源氏物語の「起筆」は謎に包まれている。石山寺(大津市)には、紫式部が琵琶湖の満月を眺めて着想したという起筆伝説が室町時代から残る。一方、NHK大河ドラマ「光る君へ」で描かれた起筆シーンは平安京の自邸(京都市上京区、現在の廬山寺のある場所とされる)。藤原道長の要請によって筆を取ったという新説に基づいたストーリーが展開中だ。真相に近いのがどちらかはわからないが、新旧の起筆説が導く紫式部像はなぜか重なる。

懇願する道長

「帝(一条天皇)は(源氏物語の)続きができたらお前に会いたいと仰せだ。お前の才で帝を藤壺に…頼む」

9月1日放送の「光る君へ」第33話「式部誕生」では、柄本佑さん演じる道長が、吉高由里子さん演じる主人公のまひろ(紫式部)に源氏物語の続編が欲しいと迫る場面が描かれた。

娘の彰子を帝に入内させた道長。文学の素養がある帝の心をつかみ、彰子の住む藤壺に足が向けば子が生まれる…。まひろが書く物語が道長の頼みの綱というストーリーだった。

起筆の動機をめぐっては、紫式部は夫の藤原宣孝と死別したわびしさに耐えられず、物語の世界に没頭し、やがて自ら書き始めたというのがこれまでの通説だった。紫式部の才能を知った何者かが執筆を依頼する外的要因説も諸説ある。

「光る君へ」の時代考証を担当している国際日本文化研究センターの倉本一宏教授は「源氏物語ははじめから道長に執筆を依頼された」との新説を提唱している。

紙が高価だった当時、長編の源氏物語に要する大量の紙を用意できた人物は限られることなどが根拠。この説がドラマに反映された形だ。

伝説への空白

「筆はしる 源氏物語誕生の地」。大津市内の各所には、大津市大河ドラマ「光る君へ」活用推進協議会のキャンペーンフレーズが入ったのぼり旗がはためいている。

根拠はもちろん、石山寺の起筆伝説。担当者は「由緒正しい伝説」と胸を張るが、内容は大河ドラマとはまったく異なる。

<物語好きの選子内親王の依頼を受けた彰子が、女房(女官)の式部に新しい物語の執筆を命じる。執筆のため石山寺に参籠した式部が琵琶湖に映る満月を眺めていると、物語の構想が浮かび、恋の遍歴のあげく須磨に退去した光源氏が、十五夜の月に都の管弦の遊びを回想する場面から書き始めた>

近現代の文豪が旅館に籠って名作を生みだしたように、風光明媚な琵琶湖に近く平安貴族が盛んに参詣した石山寺は、創作の場にふさわしいように思える。

ただ、石山寺の起筆伝説が確認できるのは、源氏物語の注釈書「河海抄」(室町時代の1367年成立)が一番古いもの。源氏物語の完成は11世紀初頭で、元滋賀県立安土城考古博物館副館長の大沼芳幸さんは「河海抄ができるまでは、石山寺と式部を結びつける文献はほとんど見当たらない」と指摘する。

子づくりの功徳

大沼さんは起筆伝説が成立した背景について、「超長編で超傑作の源氏物語を一人の女性が書けるはずがないという考えがあったのではないか」と推測する。

それで、紫式部は観音の化身(生まれ変わり)という信仰が生まれ、「鎌倉時代末~室町時代初頭ごろ、その観音が石山寺本尊の如意輪観音と特定されたことで、石山寺が源氏物語の聖地として発信され、起筆伝説が生まれた」というのだ。

なぜ石山寺の観音に結びついたのか。大沼さんは、式部は道長と源氏物語を通じて縁があった▽道長とその親族が石山寺に帰依していた▽如意輪観音には縁結びや安産の験力があると信じられていた-といった史実が特定の要因とみる。

摂関政治による道長の栄華は、彰子が天皇との間に男子を産んだことで実現した。道長が彰子の子づくり祈願のため、吉野の金峯山を登った話はよく知られている。

如意輪観音についても、大沼さんは「天皇の寝所に祀られるなど、皇室の子づくりと深いかかわりをもっていた」と指摘する。

悲願成就の喜びぶりは「紫式部日記」に生々しく記されている。紫式部は、赤子におしっこをかけられて喜ぶ道長の様子を書き残した。

ドラマが描くように、帝と彰子の絆を強めたのが源氏物語であったなら、道長にとって紫式部は、子づくりの験力をもつ観音のように神秘的でありがたい存在ともいえる。

「本当のことがわからないからこそ、豊かな想像や説を生み出してきた」。石山寺の鷲尾龍華座主もドラマを楽しんでいる様子で、「観音の化身として愛されてきた紫式部を、これからも大切におまつりしていきたい」と話していた。(川西健士郎)

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