村上春樹さんはノーベル文学賞をとる? カフカ賞の2006年から続く狂騒の行方
産経ニュース / 2024年10月4日 12時17分
10日に発表予定のノーベル文学賞で、日本人では関西にゆかりがある村上春樹さんの名前が有力候補として挙がっている。2006年に同賞の登竜門とされるチェコの文学賞「フランツ・カフカ賞」を受けて以来、ファンらの狂騒が約20年にわたって続いており、関係者の期待は尽きない。世界的に活躍する作家を知り、文学の楽しさを再認識する機会にもなる年に1度のノーベル文学賞、果たしてその行方は…。
ノーベル賞の候補者や選考過程は50年間非公開となっており、実際に村上さんが最終候補に残っているのか否かは誰にも分からない。ただ、カフカ賞の受賞者が04年と05年にノーベル文学賞を獲得し、村上さんがその翌年にアジア圏で初めてカフカ賞を受賞したことから「ノーベル賞も受賞するのでは」と期待が高まった。その後、19年にもカフカ賞の受賞者が栄冠をつかんでいる。
京都出身で、阪神間で少年時代を過ごした村上さんは、60を超える作品が50以上の言語で翻訳されている世界的な人気作家だ。今月2日に公表された英ブックメーカー(賭け屋)の予想では2位につけ、注目はいまだ衰えていない。
思想家の内田樹さんは「かつて離婚でメンタルが痛んでいるときに作品を読んで、ずいぶんと救われた」と振り返る。小説の背景は世俗的だが、人知を超えた「この世ならざるもの」との交渉が共通して描かれており、「自分がジタバタしている世界はちっぽけで、もっと深く奥行きのある世界があるのだと感じ、救われる思いがする」。国や地域、言語、宗教を超えて受け入れられる村上作品には「人間の根源に関わる原型的な物語が存在する」と評価する。
潮流は女性やマイノリティー
では、村上さんは受賞するのだろうか。文芸評論家の川村湊さんは近年のノーベル文学賞の選考について、「ポピュラー性よりも純文学的な格調高さが重視され、女性やマイノリティーの作家の知られざる文学を発掘し、光を当てる傾向がある」と分析する。
実際、ここ数年では妊娠や中絶といった自伝的作品を手掛けた仏のアニー・エルノーさん(22年)、孤独やトラウマを詩に込めた米のルイーズ・グリュックさん(20年)ら女性が隔年で受賞。また、21年に受賞したのはタンザニア出身で、植民地主義や難民をテーマにした男性作家、アブドゥルラザク・グルナさん(21年)だった。
こうした流れを踏まえ、川村さんは「村上作品を、特に欧州でエンターテインメント作品とみる向きもある」と指摘。「昨今の潮流を客観的にみると、今年も難しいのでは」とした。
日本は当分先?
言語や国(地域)の持ち回りで選出されているとの説もある。この場合、日本の受賞は川端康成さん(1968年)の26年後に大江健三郎さん(94年)、23年を経て日系英国人のカズオ・イシグロさん(2017年)が選ばれており、「日本に回ってくるのは当分先」(川村さん)かもしれない。
一方、ファンとして受賞を待ちわびる内田さんは、ハリウッドの大スターでありながら米映画界最高の栄誉とされるアカデミー賞を受賞していなかったレオナルド・ディカプリオさんが16年、主演男優賞を手にした例を挙げ、「今頃?という突然のタイミングで受賞する気がする。ファンとしては毎回気が抜けない」と期待を込めた。
日本の女性作家にも注目
近年、海外の権威ある文学賞を受賞するなどした日本の女性作家らにも、ノーベル文学賞の期待がかかっている。
日本語とドイツ語で小説を執筆するドイツ在住の多和田葉子さんは、2016年にドイツのクライスト賞を受けたことで脚光を浴びた。ドイツ語で書かれた作品に与えられる賞で、後にノーベル文学賞作家となるヘルタ・ミュラーさんも受賞している。さらに18年には、小説「献灯使」が全米図書賞翻訳文学部門を受賞。柳美里さんも20年に、「JR上野駅公園口」で同賞に選ばれている。
また、19年に同賞の最終候補、20年に英国のブッカー国際賞の最終候補に「密(ひそ)やかな結晶」が残った小川洋子さんや、22年に「ヘヴン」が同賞の最終候補となった川上未映子さんもいる。(横山由紀子)
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