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12歳の少年が見た昭和45年 大阪万博「僕たちの未来は千里丘陵のあの場所にあった」 プレイバック「昭和100年」

産経ニュース / 2024年10月27日 8時50分

自衛隊市ケ谷駐屯地のバルコニーで演説する三島由紀夫。この後、割腹自殺した=昭和45年11月

<当時の出来事や世相を「12歳」の目線で振り返ります。ぜひ、ご家族、ご友人、幼なじみの方と共有してください。>

僕は日本一恵まれた小学生だと思う。なぜなら大阪万博の会場に近い千里ニュータウンに住んでいるからだ。3月の開幕から8回も行った。日本全国から半年で6400万もの人が見に来たのだ。

夏休みには田舎のおじいちゃんたちも一家で来て僕の住む団地に泊まった。2部屋しかないのに僕の家族を含めて12人で寝たのはきつかったけど、みんなが万博を楽しんでくれたようで、まるで僕がほめられているようでうれしかった。

おじいちゃんは「月の石が見られてよかった」と言っていたが、僕に言わせれば、あれは大したことない。一番のおすすめは、50年後の未来をテーマにした「三菱未来館」だ。トラベーターという動く歩道に乗って荒れた海や火山などの映像を体験しながら、緑が美しい未来都市に行く。そこは自然の脅威を克服した人類がロボットと共存する夢の世界だった。

僕は会場に行くたびに通ったが、「人類の進歩と調和」という万博のテーマはまさにこれだ、と思った。万博が終わった今、僕の心はぽっかりと穴があいたような気分だ。

万博開幕の直後だったが、羽田から福岡に向かう旅客機「よど号」が赤軍派と呼ばれるグループにハイジャックされる事件があった。乗客ら約130人が人質になっていたため、飛行機は赤軍派の要求通り北朝鮮まで飛んだが、腹が立ったのは犯人たちが「われわれは明日のジョーだ」と名乗っていたことだ。僕の好きなマンガをこんなところで使ってほしくない。

そういえば、4月末に太陽の塔の目玉のところに籠城する男も現れた。この男も「赤軍」と書かれたヘルメットをかぶっていたので仲間かもしれない。「アイジャック事件」と呼ばれ、捕まるまで1週間もよじのぼっていた。「万博中止」を訴えていたので、僕はこの「赤軍」という連中がますます嫌いになった。この年は瀬戸内海で旅客船を乗っ取る「シージャック」という事件もあり、乗り物に乗るのが怖くなった。

11月には、作家の三島由紀夫さんが自衛隊の市ケ谷駐屯地で割腹自殺した。テレビでも自衛隊員の前で何かを訴えている映像が何度も流れた。お父さんは「最近は軍服を着たり、体を鍛えたりして変わってしまった」と言っていたが、侍のように腹を切るなんて一体何があったのだろう。僕はとても興味が湧いて学校で借りた「金閣寺」を読んでみたが、難しくてよくわからなかった。

この年は東京で光化学スモッグ注意報というものが初めて発令された。工場や自動車の排ガスが原因の一つらしく、目がチカチカしたりのどが痛くなったりするらしい。僕も大阪で似たような経験をしたことがあるが、あれは何だったんだろう。

ニュースでも「公害国会」とか言って大気汚染などを防止する法律が次々とできたらしい。少し前までは日本中が万博のお祭り一色のようだったのに今は公害の話題ばかりだ。

三菱未来館のテーマだった50年後は2020年。僕はもう年寄りだが、公害などはすべて吸い取ってくれる掃除機が登場していると思う。車だって空中パイプのようなところを走るようになる。電話はすべてテレビ電話、人間洗濯機が体も洗ってくれる。もっと大きな話で言えば、人が月に行くのは当たり前だし、世界はベトナムも中東も関係なく、とっくに平和になっているはずだ。

閉幕した万博会場まで自転車で行くと、周囲にフェンスが張られ、中でパビリオンが次々と壊されていた。さみしくて涙が出た。僕たちの未来は、本当にこの場所につながっているのだろうか。

※昭和45年3月15日から9月13日までの半年間、大阪の千里丘陵で開かれた大阪万博には海外76カ国、国内の32団体・企業が参加、終盤の9月5日には1日で83万人の最多入場者を記録した。入場料は大人800円、青年600円、小人400円だった。

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