日本酒発祥の地、かつて「宗教都市」の様相も 正暦寺 社寺三昧
産経ニュース / 2024年10月21日 11時18分
奈良県内には今は縮小したがかつて大伽藍(がらん)を誇ったという寺院も多い。奈良市中心部から東南の山間にあり、紅葉の名所として知られる正暦寺(しょうりゃくじ)(菩提山(ぼだいせん)町、菩提山真言宗)もその一つだ。
国道169号から車を東へ走らせると、清らかな川が流れる谷間に入り、間もなく寺に着いた。現在はわずかな建物しか残っていないが、重要文化財に指定されたこけら葺(ぶ)きの福寿院(江戸時代)が迎えてくれる。
客殿は江戸時代の絵師、狩野永納(かのうえいのう)の襖(ふすま)絵などもあり優雅な雰囲気。庭園は低い塀の向こうにカエデやイチョウなどさまざまな樹木が見え、自然との一体感を醸し出している。11月には一帯が紅葉してより美しく見えることだろう。
「ここは一条天皇が夢見た仏教のユートピア。藤原氏の出家者を集めて能力を蓄え、京都の文化からも影響を受けました」と大原弘信住職は語る。平安時代、一条天皇の勅命を受けて藤原兼家の子、兼俊僧正が創建した。
奈良には藤原氏の氏神である春日大社、氏寺の興福寺がある。そうしたゆかりの地に近い正暦寺は、寺伝によると86坊の子院が建ち並ぶ威容だった。平氏による南都焼き打ちの影響を受けて焼けたものの、法相宗の学問所として再興されて栄えた。江戸時代以降は衰退し伽藍は失われたという。
古絵図を見ると、山頂に守護神の牛頭(ごず)天王を祭り、その下には薬師如来を本尊に多くの堂塔が並んでいる。2つの尾根の姿からこの地は2柱の龍神に守られているように見え、谷間の聖地に築かれた「宗教都市・菩提山」の様相だったという。
大正時代に再建された本堂裏の高台に上がると、その谷間全体が見渡せる。周辺には「龍神平」と呼ばれる場所もあり、往時の隆盛が彷彿される。
さらにこの寺で有名なことがある。
室町時代に僧侶らによって現在の清酒造りのもととなる技術が確立された「日本清酒発祥の地」としての歴史だ。現在も毎年1月に境内で「菩提酛(もと)清酒祭」があり、酒母の仕込みが行われる。ここは全国に知られた日本酒の聖地でもある。
(岩口利一)
◇
正暦寺 奈良市菩提山町157。今年の秋期特別公開は11月3日~12月3日で、本堂で本尊・薬師如来倚像(重文)を公開。特別拝観料は800円。(0742・62・9569)。
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