突然やってきた初の戦場取材 駅前の戦車に恐る恐るカメラを向けて… 話の肖像画 報道カメラマン・宮嶋茂樹<21>
産経ニュース / 2024年7月22日 10時0分
《1985年夏の日航ジャンボ機墜落事故取材の経験から「現場最優先」をモットーに続けた仕事。だが、ニュースの流れを読むのは難しく、フィリピンのピープルパワー革命(86年)、中国の天安門事件(89年)…と、相次いで取材の好機を逃した。ようやく巡ってきたのは…》
いいタイミングで現地入りできたのが、89年12月のルーマニア革命。チャウシェスク大統領夫妻(当時)の処刑映像が全世界に流れた日に首都ブカレストに着いたので、日本の新聞社やテレビ局と比べても早い方でした。あのときは、11月に横浜市で坂本堤弁護士一家殺人事件を起こしたオウム真理教幹部たちが、支部のある西ドイツ(当時)の首都ボンに逃亡、それを追いかけていました。
でも、オウムの支部に張り込んでも元教祖、麻原彰晃元死刑囚らは既にいなくて、写真も撮れませんでした。そんななか、ヨーロッパ中がベルリンの壁崩壊で大騒ぎに。ルーマニアでも反政府運動が広がって大変な状況に陥り、急遽(きゅうきょ)行くことにしました。ルーマニアは内戦状態でハンガリー経由での入国は難しく、ブルガリアの首都ソフィアから鉄道で入りました。
《現地入りして真っ先に目に飛び込んできたのは、報道カメラマンとして取材を熱望していた「戦場」だった》
乗り込んだ夜行列車はコンパートメント(個室)で、ガラガラでした。乗り合わせた女性から、チャウシェスク大統領の悪口を聞くうちに、翌朝ブカレストの駅に着きました。一歩、町に出ると駅前を戦車が走り回っていましたが、どんな人間が操っているのか分かりません。興奮しながらも恐る恐るカメラを向けました。緊張したけど問題は起きませんでした。革命軍の戦車だったんです。
周囲を見回すと、みんな浮かれていました。国旗の真ん中にある共産党の紋章をくり抜いて喜んだり。でも、場所によってはまだ銃撃戦が続いていました。宿泊先や移動手段などを全く考えずに、夢中で足を踏み入れた初めての戦場。手持ちの現金は考えられないくらい少額でした。
何とか探したレンタカーは運転手付きで、クレジットカードも使え、すぐにホテルも見つかりましたが、取材のほとんどが単独です。至近距離で銃撃戦が始まり、厳寒の中、車の下に隠れたこともありましたが、恐怖や不安より、正直いうと現場を踏めた安堵(あんど)感の方が大きかったです。「多くの媒体に写真を掲載したい」と欲が出て、夢中で写真を撮りカラーフィルムも使いました。
いろいろな面で運のいい取材でした。銃殺されたチャウシェスク大統領の宮殿を取材できたのは、ホテルのロビーで外国人カメラマン同士の会話を聞いたのがきっかけでした。「そろそろ行こうか」とか言っているので、「なんの話?」って聞くと「パレスが見られる」と。あわててついて行くと、革命軍将校のエスコートで中に入れたんです。このときは英語が通じました。
《銃弾が飛び交う現場を取材、ようやく報道カメラマンの先輩たちと〝同じ土俵〟に立てたと実感した》
自分が報道カメラマンになった当時は、ベトナム戦争の現場経験がある先輩が大勢いました。ピュリツァー賞を受賞した酒井淑夫さんやエディー・アダムスさんにも会いましたから。取材現場で居合わせたとき、そういう先輩たちが話すベトナムの経験談が自慢話に聞こえて、悔しさを覚えていました。
内戦状態のルーマニアを取材でき、「やっと自分もそれなりの現場を踏めた」と安堵しました。だから、どんなことをしても自分で撮影したフィルムは、持って帰りたかった。「どうしても世の中に発表したい」という強い思いがありましたから。振り返って考えると、初めての戦場取材は「結果オーライ」でしたね。(聞き手 芹沢伸生)
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