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21歳で脳出血「人生終わった」からCPサッカー代表守護神に W杯出場で見える景色

産経ニュース / 2024年10月17日 9時30分

ワールドカップを前に意気込みを語るCPサッカー日本代表の柳英行さん(二星昭子撮影)

脳出血を患った影響で、右半身まひの障害を抱える柳英行さん(41)=兵庫県芦屋市在住=が脳性まひ者たちが取り組むCPサッカーの日本代表GKに選出され、11月にスペイン・サロウで行われるCPサッカーのワールドカップに出場する。これまで日本代表の最高位の成績は13位だというが、柳さんは「まずは10位以内。そしてメダルを目指したい」と意気込んでいる。

意識混濁、涙流す母

柳さんが脳出血を発症したのは、21歳のとき。これといった前兆はなく、冬のある日、運転していた車を降りた際に突然倒れた。気づいたら病院のベッドの上だった。

診断は脳出血で右半身のまひ。当初は、言語障害もあって言葉が話せなくなっており、呆然(ほうぜん)としていた。近くで涙を流す母の姿があることは分かったが、自分に起きたことを正確には理解できなかった。ただ、混濁する意識のなかで「人生、終わったな」とだけ思った。

ところが、搬送された病院からリハビリ病院に転院すると、同年代の患者たちが懸命にリハビリに取り組む姿に刺激を受けた。次第に「自分も頑張らないと」という思いが芽生え、紹介されたCPサッカーに挑むことにしたという。

障害にもどかしさ

小中学校のころは野球少年だったという柳さん。ポジションは、キャッチャーで、全国大会にも出場したこともあるスポーツマンだった。病気になるまでは友人と遊びまわることが好きな普通の若者。毎日が楽しすぎて、将来のことをじっくり考えることもなかったという。

でも、病気になると一転。シビアな現実が待っていた。手の指が思うように動かず、自分で着替えをするのも難しかった。箸も使えず、靴ひもも結べない。これまでできていたことができなくなったことがつらかった。

その後、言語障害もある程度は回復したが、それでも友人と話していると「えっ、何ていったの」と聞き返されることもしばしば。話したいことが伝わっていない、と不安になることもあるという。

捕手経験が生きる

CPサッカーも簡単ではなかった。最初は転んだり、うまく走れなかったりするところから練習を始めた。加入したサッカークラブ「CP神戸」では、障害を抱えるメンバーとともに練習を続けたが、ある大会で、急遽(きゅうきょ)、ゴールキーパーが出場できなくなるアクシデントにみまわれた。

そこで、白羽の矢が立ったのが、野球でキャッチャー経験があった柳さん。ゴールキーパーの経験はなかったが、代役のまま活躍を続け、チームを優勝に導いた。

それがきっかけに柳さんのゴールキーパーとしての才覚が開花。セービングを学び、実績を重ね、日本代表守護神の座をつかむまでに成長した。現在は「ほけんの窓口」に所属するアスリートとして、練習と業務を続けている。

日本代表として海外遠征することも多いが「海外では自分が知らなかったことと出会える」と話す。幼子が物売りをしたりしていて貧富の差を感じることもあるが、底抜けに明るい人たちとの交流もあり、世界の人々との出会いのすばらしさを感じているという。

「いまはサッカーが一番好きだし、生きがい。ワールドカップで結果を残したいし、CPサッカーの普及も目指したい」といきいきと未来を語る柳さんに、あえて「もし病気にならなかったら、と考えることはありますか」と尋ねてみた。

柳さんは少し考え「病気になる前は若かったこともあって、今から思うと何も考えていなかったように思えます。さまざまな出会いに恵まれた今の方が、良い人生を歩んでいるのかもしれません」と話していた。(河居貴司)

CPサッカーワールドカップはスペイン・サロウで11月9日~22日の日程で行われる。15カ国が出場し、日本はグループリーグでブラジル、イングランド、カナダと対戦する。

CPサッカー 脳性まひや脳卒中などの障害のある人たちのための7人制サッカー。「Cerebral(脳からの)」「Palsy(まひ)」の略。フィールドは少年サッカーとほぼ同じサイズ。オフサイドはなしで、両手上からのスローインができない人のために、片手下からのスローインを認めている。1984年からパラリンピックの正式種目となったが、2020東京大会からは競技種目からははずれている。

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