高齢者がペットと暮らすには 入院・死亡のリスク考え、元気なうちに準備を 100歳時代の歩き方
産経ニュース / 2024年10月6日 9時0分
高齢者にとってペットと暮らすことは生きがいや日々の励みになる一方、飼い主の入院や死亡でペットが行き場を失うリスクも生じる。高齢者がペットと暮らそうとする際に気を付けるべきことは何か。関係者は「元気なうちから考え、備えをしておくことが大切だ」という。
昨年、首都圏のある家で放置されていた犬が動物保護団体に引き取られた。高齢夫婦が暮らしていたが、世話をしていた妻が死亡後、夫はエサやりも散歩もせず、見かねた近所の人が通報した。犬はすっかり弱っており、治療を受けたものの命を落とした。
保護したNPO法人「日本動物生命尊重の会 A.L.I.S(アリス)」(東京都世田谷区)の前代表、金木洋子相談役は「奥さまが亡くなってから、かなり時間がたっていた。とてもつらい」と話す。「体が弱っている高齢の母親がたくさんの猫を手放さない」といった相談も寄せられているという。
東京都動物愛護相談センターでは、引き取る動物の飼い主の8割が高齢者だ。令和4年度に引き取った犬猫56頭のうち、最も多い理由は飼い主の病気で55%。次いで経済的理由が23%、飼い主の死亡が16%だった。獣医師の栗田清・統括課長代理は「『高齢の飼い主が病院や施設に入るため』という理由が多くなっている」と話す。
高齢の飼い主は入院や死亡のリスクが若い人より高い。高齢になれば、ペットの世話に必要な体力への不安も生じる。金銭的にもエサ代や動物病院の費用などがかかり、老後の金で賄えない危険性がある。第一生命経済研究所の櫻井雅仁・研究理事は「社会福祉として、高齢者をケアする仕組みの中にペットを取り込み、サポートしていくことが望まれる」と提言する。
ペットフード協会が令和5年に行った調査によると、犬の平均寿命は14.62歳、猫は15.79歳で、以前より延びている。65歳で幼い犬や猫を飼い始めたら80歳くらいまで世話をする計算だ。「アリス」では保護した犬や猫の新しい飼い主を探す際、「1人暮らし以外」「1歳未満の犬猫は世帯主の年齢が50歳まで」などの細かな条件を設定している。
環境省は飼い主とペット双方の高齢化を踏まえ、パンフレットを作成した。ペットの世話が大変になったり、入院することになったりしたときに備え、「一時的な預け先を見つけておきましょう」などの注意事項を記している=表参照。
平成25年施行の改正動物愛護管理法で、飼い主には動物が命を終えるまで適切に飼養する「終生飼養」の責任があることが明記された。環境省の担当者は「終生飼養のためにはどうしたらいいのか、きちんと考えてから飼うことが大切だ」と話している。
飼えなくなったら…民間施設の有償預かりも
飼えなくなった動物は団体や民間施設などが引き取ったり、預かったり、新しい飼い主に譲渡したりしている。
東京都動物愛護相談センターに収容された動物は、譲渡会や動物保護団体などを通じ、新たな飼い主に引き取られるまでセンターで暮らす。ただ法などで、飼い主に終生飼養の責任があり、相当の理由がない場合は自治体は引き取りを拒否できるとされているため、引き取るのはやむを得ない場合に限られる。飼い主自身が新たな飼い主を探すように働きかけるという。
有料で預かる民間施設もある。千葉県九十九里町の「老犬ホーム九十九里パーク」は、広大な敷地に芝生のドッグラン3つを備える。
石川慶秀園長によると、飼い主の大半が高齢者で、入院で預ける場合が多いという。パークでは、犬の写真と近況を飼い主に報告している。石川園長は「犬との再会を励みに闘病生活を送っている飼い主も多い」と話す。料金は10歳以上の老犬で1年コースの場合、3年目まで年44万円、以降は年26万4000円だ。
NPO法人「人と動物の共生センター」(岐阜市)は、飼い主の入院や死亡時にペットを引き取る「ペット後見互助会 とものわ」を作った。入会金と手数料は10万円、月会費1000円。飼育費は100万円からで、飼い主の生命保険信託を充てることもできる。獣医師の奥田順之理事長は「高齢者も安心してペットを飼えるセーフティーネットが必要だ」と話す。(本江希望)
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