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障害者スポーツ人口拡大へ 競技場少なく、指導者足りず…各地で対応模索

産経ニュース / 2024年9月3日 18時25分

日本勢がメダルラッシュをみせるパリ・パラリンピックなどトップアスリートらの活躍は近年、障害者スポーツが認知されるきっかけとなってきた。ただ、一般の障害者が気軽に競技を楽しめるまでには至っていない。競技場や指導者の不足などが課題となっており、裾野を広げる取り組みが各地で始まっている。

厚生労働省によると、国内には1100万人を超える障害者がいるとされる。しかし、これだけの人数が定期的にスポーツを楽しむには施設が圧倒的に不足している。

笹川スポーツ財団の調査(2021年)によると、障害者が専用・優先的に利用できるスポーツ施設は150。全都道府県にあるものの、1~2施設しかない自治体も多い。電車・バスの利用や介助なしでの移動が難しい障害者が日常的に通うにはハードルが高い。

障害者スポーツの利用を断る施設もある。体育館の床が車椅子で傷つくなどの懸念やバリアフリー設備が整っていないことなどが理由だという。

指導者も十分に確保できていないのが現状で、安全にスポーツを楽しめるノウハウが現場に不足していることが競技人口の伸びを阻んでいる。

笹川スポーツ財団は今年度から、障害者向けスポーツ施設と地域の体育館などを連携させ、競技の受け皿を増やそうという試みを始めた。東京都江戸川区では、区総合体育館のスタッフが都障害者総合スポーツセンター(北区)で専門家の指導の下、障害児への水泳指導を研修。地元の施設で水泳を指導する際の課題や対応方法を学ぶ。

北九州市では、障害者スポーツを支援するボランティア団体のスタッフを公共施設などに派遣し、障害者が競技しやすい環境づくりを進めている。ボランティアの活用は、専門人材が足りない地域にとって一助となる可能性があるという。

「地域の事情に合わせて導入できるよう、それぞれの成功事例を作っていきたい」。同財団の政策ディレクター、小淵和也氏はこう話す。スポーツ施設を運営する指定管理者を自治体が募集する際、障害者スポーツを指導できる人材を配置することを要件に入れるよう提案しており、「問題意識を持った自治体は増えている」と指摘する。

今年4月に施行された改正障害者差別解消法では、障害のある人の求めに応じて、負担が重すぎない範囲で困りごとに対応する「合理的配慮」が民間事業者にも義務付けられた。パラリンピック開催を機に、共生社会実現に向けた意識の高まりが期待される。

障害者のスポーツ実施率は3割

スポーツ庁の第3期スポーツ基本計画は、障害者の週1回以上のスポーツ実施率を40%程度(若年層は50%程度)を目標に掲げている。

2023年度の調査では、20歳以上の週1回以上のスポーツ実施率は32・5%。7~19歳では34・4%で、東京パラリンピックが開催された21年の41・8%から減っている。東京パラをきっかけに増加したが、新型コロナウイルス禍を背景にその後は実施機会が減少したとみられる。

障害のない人とスポーツをしたことがある割合は全体の17・1%にとどまり、共生社会には程遠い現状が垣間見える。

スポーツを行う上でのハードルについて「障壁はなく、十分に活動できている」と回答した人の割合は17・4%で、前年度から8・4ポイント増えた。

障害者への理解 ミスリードへの懸念も

パラリンピックでの選手の活躍に注目するあまり、障害者への理解がミスリードされることへの懸念もある。障害がある人が「そのままの自分でいられる」という本来の多様性の価値が損なわれないよう専門家は訴える。

順天堂大の渡正先任准教授(スポーツ社会学)は、パラ選手への注目が「その人は素晴らしい能力があるから社会にいる意義がある」という考えを助長する一方で、スポーツに参加していない障害者に対し「なぜ頑張らないのか」という見方が強まることを懸念する。

渡氏によると、2012年ロンドン大会以降、パラが「障害者の生活向上につながっていないのでは」との疑念が出始めたという。大会1年後に発表された英国の調査では、障害者の8割が「過去12カ月で障害者に対する態度は改善していない」と回答した。

一般の健常者が五輪選手の身体能力とかけ離れているのと同様に、パラ選手と一般の障害者にも能力の乖離はある。笹川スポーツ財団政策ディレクターの小淵和也氏は「パラ選手は障害者の一握り。容易にはスポーツができない人も多く、したくない人もいる。パラをきっかけにそういう人たちにも思いをはせてほしい」と話した。(松田麻希)

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