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ほろよい余話 2年以上漬けたたくあんが「ぜいたく煮」になるまで

産経ニュース / 2025年2月11日 13時0分

松浦すみれさん

関西にゆかりのある方は「ぜいたく煮」をご存じだろうか。たくあんの古漬けを塩抜きし、出汁(だし)と醤油などで炊いた郷土料理である。京都でもスーパーのお惣菜売り場に並んでいたし、我が家では母の大好物な得意料理だった。

滋賀出身の母が実母から教わったレシピでは、たくあんにタカノツメ、さらに大豆が欠かせなかった。幼い頃、台所にひたひたに具が入った大きな鍋がかけられていて、一日中コトコトと、かんばしい湯気を立てていた記憶がある。タカノツメのピリリとした辛味を含んだ大根と、お出汁で膨らんだ大豆は、冷ませばより旨味が増すので、お茶漬けにして何杯もかきこむのが定番だった。

後に、具材の大根が、たくあんの古漬けだと知って驚いた。実はたくあんが苦手だった私も、全く気づかずにいたのだ。すでに祖母も母も他界してしまい、あのレシピを教わらなかったことを悔やんでいる。

湖北に住んで数年たったとき、地域の寄り合いにぜいたく煮が出て、郷土食であることを知って驚いた。

調べてみると、県内全域にみられるようで、信仰深い湖北地域では、お寺の仏事でも欠かせない定番の一品だという。

先月末、いつも地元の郷土食を教わっている、明楽寺(長浜市木之本町)の藤谷法子さんを訪ね、あらためて「ぜいたく煮」の作り方を教わった。

法子さんによれば、仏事の際には、前日までに作り、当日は食べる直前に温めて、手伝う人たちのまかない料理として振る舞うのだという。

材料は、2年以上漬けられたたくあんを使う。まず、古漬け特有の塩気や臭みをとるため、一晩水に漬けておく。この塩抜きする「けだし」の工程が古漬けには必須だという。

翌日、漬けた水を捨て、鍋にけだししたたくあんと水とタカノツメを入れ、火にかける。後で味付けするため、さらに塩気と臭みを取りのぞく。味見して、納得いけば火からおろして湯をこぼす。

鍋に出汁を入れて再び火にかけ、酒、砂糖、みりん、醤油などの調味料を加え、ふつふつとしてきたら、弱火でじっくりと煮ていく。

味の頃合いを見て火を止め、一旦冷まし、さらに一晩ねかす。翌日、再び火にかけて味見をし、必要な調味料を加えて、最後に、油をひと回し入れる。混然一体となった旨味に、さらに照りが加わって、食べ応えある味わいに仕上がった。味つけなどは家庭や地域によって、様々にこだわりがあるそうだ。

この手間ひまこそが「ぜいたく煮」の名の由来のようで、知れば知るほどに奥深い、郷土の味である。

絵と文 松浦すみれ

まつうら・すみれ ルポ&イラストレーター。昭和58年京都生まれ。京都の〝お酒の神様〟をまつる神社で巫女として奉職した経験から日本酒の魅力にはまる。著書に「日本酒ガールの関西ほろ酔い蔵さんぽ」(コトコト刊)。移住先の滋賀と京都を行き来しながら活動している。

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