労働者を包み込む西成・釜ケ崎 「カマ」「あいりん」の特色は 大阪公立大の垣田裕介教授 明解!公大ゼミ(4)
産経ニュース / 2025年1月28日 13時0分
労働者の街として栄え、「カマ」や「あいりん」の名で知られる大阪市西成区の釜ケ崎地区。昭和から平成にかけてのバブル経済期には、その日の仕事を求める人が2万~3万人おり、建設現場などで汗を流した。街では過去に暴動も頻発したが、高齢化もあって今は随分と静かになった。そもそも、なぜこんな特色ある街が西成に存在し、労働者を包みこんできたのか。大阪公立大生活科学部人間福祉学科の垣田裕介教授(48)にワケをひもといてもらった。
--釜ケ崎の歴史を教えてください
「現在の日本橋にあった安宿が、明治後期に釜ケ崎へ移ってきたのが街としての始まり。もともとは田畑でした。今は『あいりん地区』とも呼ばれます」
--「あいりん」と「釜ケ崎」。どう使い分けられるのですか
「厳密な定義はありません。『あいりん』の名は昭和36年の西成暴動で生まれた。平成20年までに暴動が24回発生。暴動を機に、行政が地域対策の一環で街に介入し、その際に釜ケ崎を『あいりん』と名付けたのです」
--「あいりん」ってどういう意味ですか
「地名ではないことは確かだが、はっきりとは分かりません。ただ、行政が使う呼び方で、労働者たちは『カマ』と呼ぶ場合がほとんど。西成区萩之茶屋や太子のあたりです」
--カマにはかつて、どれほどの人が集まっていたのでしょうか
「バブル経済期だと、2万~3万人ほどの労働者がいて、年間で160万~180万件の求人がありました。6年前に閉鎖されたあいりん総合センターの館内や付近が『寄せ場』と呼ばれ、建設業者などが、早朝の4~5時ごろに日雇いの働き手を募っていました」
--それほどのにぎわいがあったとは。今とは大違いですね。日雇いの仕事にありつけない人はどうしていたのでしょうか
「実はここでは、一定の要件を満たせば『日雇失業保険金』(通称・アブレ手当)がもらえます。ただ今では労働者も高齢化し、重労働に耐えられなくなったので、多くの人が『特別清掃』と呼ばれる地域の道路清掃などで生計を立てるようになりました。日当は6500円。大阪府と大阪市が支払っています」
--先生も実際に街を歩かれたことは?
「もちろんあります。25年前から現地に入って労働者と話してきました。若いころはカマを歩いてると、時々『仕事、行かへん』などと声をかけられました。一般的に『手配師』と呼ばれる斡旋(あっせん)業者がいて、今でもいろんな人に声をかけています」
--朝が早い労働者たちは、どこで寝泊まりするのでしょうか
「街中にある2、3畳1間の簡易宿泊所が多い。狭さ故に労働者たちが『こんな狭い場所は宿じゃない。ドヤや』と言ったとされ、宿を反対から読む『ドヤ』の呼び名が定着しました。一種の自嘲表現なので、簡易宿泊所の経営者はドヤと言わず、簡宿と呼びます」
--カマの労働者が減る中、簡易宿泊所には現在、どのような方が寝泊まりしているのでしょうか
「生活保護を受給する人が増え、カマに残る高齢者向けに、簡宿からアパートに衣替えした物件も多い。生活保護費を受給するには住所が必要。近年ではさまざまな事情で困窮した若者から高齢者まで多くの人が集まっている。『何とか生きていける街』ですし。留学や技能実習で来日した人や、観光で訪れる人も増えています。時代の変化に対応できる街の柔軟性が、人々をひきつけているのかもしれないですね」
(聞き手 倉持亮)
◇
かきた・ゆうすけ
昭和51年3月生まれ。大阪公立大生活科学部人間福祉学科教授。約25年前から釜ケ崎の調査、研究に携わる。現地で多くの労働者と触れ合い、彼らを「誇り高き労働者」と尊敬している。昨秋、ホームレス研究の学会で東欧ハンガリーを訪れた際、現地のサウナに感動。「がつんとやられた」といい、帰国して以降は、労働者たちも多く訪れる銭湯をめぐることが趣味になった。
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