敗戦の「傷」黙して生きた 海兵70期生434人、最後の一人 記憶をつむぐー戦後79~80年㊥
産経ニュース / 2024年8月18日 7時0分
「われわれはみんな、死に物狂いで戦った」
対米英開戦直前の昭和16年11月、予定より半年早い2年11カ月の教育期間で海軍兵学校を繰り上げ卒業した第70期生。その一人、木村功(104)=徳島県=は、責務を貫いた同期たちの声を代弁する。
短縮教育を終えた70期生434人(水交会調べ)は各戦場に投入された。自身も重巡洋艦「妙高」乗り組みを命じられる。
開戦の知らせは艦内のラジオで聞いた。
「なぜ米国と戦争しないとならんのかとの思いはあったが、アジアの植民地を解放するという意識はありましたね」
翌17年1月4日、フィリピン南部、ルソン島のダバオに停泊中だった「妙高」の士官室で昼食中、空襲警報が鳴った。敵機による奇襲だった。
上甲板に向かうと、いくつもの水柱が上がっていた。直後、後方から鋭い衝撃を受ける。艦への直撃弾だった。炸裂(さくれつ)した爆弾の破片が左足のふくらはぎを貫通していた。
「診てくれた衛生兵が驚くくらい、出血がひどかったようです」
同乗していた同期2人も死傷。木村たちは70期生で最初の戦死傷者となった。今も破片は残り、足は不自由なままだ。
その後、国内で療養したが、戦場の人たちに申し訳ないとの思いが常にあった。
「とにかく前線に出してほしい、それだけだった」
「大和」の大きさに圧倒
17年11月、世界最大の戦艦「大和」乗り組みを命じられる。想像以上の大きさに圧倒された。
連合艦隊の旗艦だが、当時は前線に出撃せずトラック諸島(現ミクロネシア連邦チューク諸島)で訓練・整備の日々。たびたび作戦会議が開かれ、各艦の艦長が「大和」に集まる。海兵時代の席次で案内するのがしきたり。「兵学校の何期か、何番で卒業したかなどを資料で調べ、乗艦する順番を門衛に伝えました」
長官室の山本五十六のもとに毎日何十通もの電報を届けた。味方の苦戦や損害のほか、爆撃された飛行場をすぐに復旧させる米国の圧倒的な工業力を伝えるものもあった。長官はいつも不機嫌だった。「負けると分かっていたのでは」
18年3月、航空巡洋艦「利根」乗り組みとなり、前線に出動。戦況が厳しさを増した19年10月、史上最大の作戦ともいわれるフィリピン・レイテ沖海戦に参加した。
米軍の上陸を阻止すべく、レイテ湾に集結した敵機動部隊をおびき寄せるため日本側はおとり艦隊を使い、その間に主力艦隊が湾内に突入し、敵上陸部隊の船団を攻撃する大規模な作戦だった。
「われわれは命がけだった」
旗艦「愛宕」が撃沈され、戦艦「武蔵」も沈められる中、「利根」は攻撃を繰り返した。全速力で航行するたび、艦がミシッ、ミシッときしむ。周囲では、傾く艦から飛び込む敵味方双方の兵の姿が見えた。
想定通り、敵主力部隊はおとり艦隊を追走。ところが、艦隊司令長官の栗田健男はレイテ湾を目前にして作戦を打ち切った。
「われわれは攻めている感覚で、『利根』から(旗艦となった)『大和』に『攻撃に行くべきだ』との信号を出した。レイテに突入すべきでしたし、長官は弱い人だと思った」。最終的に、日本海軍は壊滅的な被害を受けて敗走する。
この作戦に合わせ、海軍は神風特別攻撃隊を編成した。10月25日、「特攻第一号」で戦死したのは、海兵70期の関行男。同期は軍神となった。「戦死の報は目に留まりました。ただ同時に、われわれはみんな命がけだったので、彼だけ特別という思いはなかった」
70期生は6割超に当たる282人が戦死した。誰もがあの時代のエリートであり、国に命を賭すことが当たり前だった。
しかし、敗戦で価値観は180度変わり、海軍にいたとの理由で職にも就けなかった。命を懸けた国、国民は冷淡だったが、さまざまな思いを飲み込み、家族にも黙して生きた戦後だった。
「世の中変われば変わるもんだな」。つぶやく言葉に実感がこもる。戦後79年。木村は、70期生最後の一人となった。(敬称略)
レイテ沖海戦 昭和19年10月下旬にフィリピン・レイテ島周辺海域で繰り広げられた日米両軍の大規模海戦。米側はフィリピン上陸と奪還、日本側はその阻止と、南方からの戦略物資の輸送経路確保を目指した。日本海軍連合艦隊が総力を挙げて戦ったが、空母をすべて失うなど壊滅的打撃を受けた。飛行機ごと敵に体当たりする神風特別攻撃隊が初めて出撃した戦闘としても知られる。
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