人口減の集落で挑む地方創生 山林の温室効果ガス削減量の企業販売に名乗り 深層リポート
産経ニュース / 2024年12月14日 8時0分
山形県鶴岡市の山間部にある小さな集落、三瀬(さんぜ)地区が大きな夢に取り組んでいる。人口減で荒廃した山林の活用に向け「木質バイオマス」をエネルギー資源として地産地消を進め、さらなる一手として山林による温室効果ガスの削減量や吸収量を企業に販売する「森林由来J-クレジット」制度に名乗りを上げた。地方創生のモデルとして、行く末が注目される。
薪ストーブの燃料に
三瀬地区は三方を山に囲まれ、日本海に臨む静かな土地だ。かつては豊かな山で林業が盛んだったが、3500人を超えていた人口は令和3年2月時点で1305人にまで落ち込んだ。山林も整備が追い付かず、荒廃する一方になった。銀行やガソリンスタンドが次々に撤退するなどして〝負のスパイラル〟に陥ったとき、住民が着目したのが荒れた山林だった。
地域材を活用しながら山林を整備し、雇用創出、人口増につなげる構想を描き、山林から作られる木質バイオマスを地区の薪ストーブの燃料として活用する取り組みを開始。令和3年までに37軒で薪ストーブが導入された。
東北芸術工科大学の試算では地区内で利用されるエネルギーは金額ベースで年間約3億6千万円。このうち石油(灯油、重油)は約1億円と推計され、同地区では5千万円分を薪ストーブに切り替えることでエネルギーの地産地消を図ることを掲げる。
野村総研とタッグ
さらに新たな振興策として、シンクタンク大手の野村総合研究所(東京)と手を組み、「森林由来J-クレジット」に挑戦している。国内における温室効果ガスの排出削減・吸収量認証制度で、国の認証を受けたうえで、森林による温室効果ガスの削減量や吸収量を企業に販売する。
野村総研DX事業推進部の担当者は「山間部は過疎化などの問題を抱え、何かしようにもお金がない」と指摘した上で、「森林由来J-クレジットなら、森林の二酸化炭素(CO2)吸収という価値を経済価値に換えることができる」と話す。
三瀬地区と同様の課題を抱える同市の温海地区も参画し、5年に三瀬自治会、温海町森林組合、地元の建設会社「佐藤工務」の3者でCO2吸収量の算定などを盛り込んだ計画を国に申請。7年1月には認証が取得できる見通しだ。
対象は三瀬、温海地区の山林計100ヘクタールで認証期間は令和6年度から13年度。当初計画で予定するCO2の取扱量は年間180~190トンとなり、企業に売却する。東京証券取引所では1トン当たり5千円程度の取引があるという。
「全国に展開したい」
三瀬地区で「ひゃくねん森」という杉林を整備してきた林業、加藤周一さん(68)は「伐採だけはなく、必ず植林して森を育てる。ここの森は循環しているんです」。80年以上の歴史がある杉林は見事に間伐され、根元まで光が降り注いでいた。
日本には約2500万ヘクタールの広大な森林があるが、木材需要の低迷や後継者不足などに直面している。森林由来J-クレジットの対象になる森林も10万ヘクタールにとどまっているのが現状で、野村総研の担当者は「この取り組みを全国に展開し、森林由来J-クレジットで地方創生に貢献したい」と今後を見据えた。
◇
森林由来J-クレジット
適切な森林管理による温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国が「クレジット」として認証する制度。CO2などの排出量削減に関わる取り組みをした事業体は、国の認可を受けてその削減量分をクレジットとして企業などに販売できる。クレジットを創出した事業体は売却益で森林整備の効率化などを行うことができ、クレジットを購入した企業は森林保全活動の後押しやCO2削減などをアピールし、製品・サービスの差別化にも活用できる。
記者の独り言
親族が九州の山奥に山林を所有している。近くには日本一高いとされる杉や、観光バスで見物客がやってくる巨大なヒノキもある。一見、羨(うらや)ましいとも思えるが、実態はまったく違うらしい。「一山、数万円でも売れない。持っているだけ損」。手入れが行き届いていない木材は、「ほとんど価値がない」と聞く。運び出すだけで赤字になり、手が付けられずに結局、山は荒れていく。取材した「森林由来J-クレジット」の取り組みは、森林の再生への福音になるのか。(菊池昭光)
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