お菓子の顔から大阪の顔に おなじみネオンサイン、進取の気性随所に 昭和だヨ 全品集合 江崎グリコ編
産経ニュース / 2024年10月11日 10時30分
「グリコ」といえばこのマーク。両手を高く広げたゴールインのポーズだ。大阪・ミナミの道頓堀、戎橋のたもとにある「グリコサイン」は現在6代目。さて、『昭和100年』シリーズ「グリコ編」の〆は、このトレードマークの誕生秘話をお届けしよう。そんなん知ってるわ!と言わずに、まぁ一粒召し上がれ。
駆けっこから着想
「ゴールイン」のポーズはどこで生まれたのか。それはグリコの創業者・江崎利一氏の故郷、佐賀市蓮池町にある「八坂神社」。実家の近くにあるこの神社で利一氏は毎日、栄養菓子「グリコ」の構想を練っていた。
パッケージをどうしよう。キャラクターは、キャッチフレーズは?―と頭を悩ませていたある日、子供たちが境内で駆けっこをしているのが目に入った。楽しそうに競走をして先頭でゴールインした子が両手を広げて笑った。
「そうだ。これだ!」。これからの時代は健康とスポーツは切り離せない―と直感した。
利一氏の凄いところは、直感だけで行動を起こさないところ。それまでに考えていた「花」や「鳥」「象」「ペンギン」などのマークの原画と一緒に、近くの小学校でアンケートを実施。その結果、子供たちの一番印象に残ったのが「ゴールイン」のポーズ。さっそく利一氏は画家に依頼した。
大正11年、「グリコ」は大阪の三越百貨店で販売が始まった。ところが、数カ月たっても市場の反応はいまひとつ。なぜだ? 利一氏は百貨店の売り場を訪ねた。ちょうど数人の女性客が「グリコ」を手に取ったところにでくわした。しばらくすると、その女性たちは「グリコ」を棚に戻して他社のキャラメルを買ったのだ。思わず利一氏は女性客に尋ねた。
「なぜ、グリコを買うのをやめたのですか?」
「箱の絵の顔が怖いんですもの」
「幽霊みたいな顔でしょ」
確かにちょっぴり怖い。利一氏は画家に再び依頼した。だが、なかなか思うような顔にならない。そんな利一氏の目にとまったのが大正13年のパリ五輪で活躍した谷三三五選手とNHKの大河ドラマ『いだてん』の主人公にもなった金栗四三選手らの笑顔だった。
こうして昭和3年から笑顔でゴールインするポーズに改良。そうみれば、なんとなく金栗さんの顔に似ている? こうして昭和10年、大阪・道頓堀のあの場所に、高さ33メートルの初代ネオン塔が設置されたのである。
宣伝には緻密な計算
「グリコ」のネオン塔といえば大阪・道頓堀のグリコサインが有名だが、実はもっと以前にもネオン塔はあった。昭和6年、場所は浅草雷門の横。ネオンの点滅でランナーの足が左右交互に動き、まるで走っているように見えたという。
「でも、それがいけなかったんです」と社史担当の清水洋司さん。
「自動車の運転手や歩行者の目を引き過ぎて〝危険である〟と警察から中止願いが出されたんです」
しかたなく点滅装置を取り外した。このほか7年に神戸の新開地や大阪の新世界、大阪駅前などでネオン広告を開始した。
「利一は広告、宣伝の重要性を理解していました。いつも《広告は創意工夫によって5倍、10倍の働きを収めることができるが、使いようによってはお金を泥沼に捨てる結果にもなる》と話していました」と清水さん。こんなエピソードが残っている。
昭和6年12月、グリコは大阪市西淀川区御幣島に大阪工場を建設した。そばを国鉄(現JR)東海道線が走っており、列車の窓から工場がよく見えた。この立地条件を利一氏が見逃すはずがなかった。広告宣伝を頭に入れて建物の配置や設計を行ったのである。
①車窓から約20秒間は見えるように―と、線路から建物の間に緑地帯や運動場をはさむなどして距離をとる。
②グリコの文字が入ったゴールインマークの大看板の高さは18メートル。
③工場の壁面に掲げる「一」「粒」「三」「百」「メ」「ー」「ト」「ル」の文字の高さは乗客の目から水平方向が望ましい―と、利一氏自ら何度も列車で往復しながらその位置を決めたという。
恐れ入りました。
キャッチフレーズに「進取の気性」
「1粒300メートル」が「グリコ」キャラメルのキャッチフレーズだ。
グリコの栄養価をカロリー計算し、そのカロリーで走れるおおよその距離を「300メートル」とした―という有名なお話。だが、このキャッチフレーズ最大の注目は、実は「メートル」と表示したこと。
「グリコ」が売り出された大正11年当時はまだ「尺貫法」が主流。わが国で「メートル法」を基本とする《改正度量衡法》が公布されたのは大正10年4月。一般に普及したのは昭和34年以降だ。当時の人たちは「300メートル」って何?- と首をひねったことだろう。
「それほど利一は〝進取の気性〟に富んでいたという証明です」と清水さん。ちなみに34年11月、メートル法実行期成委員会から利一氏へ「感謝状」が贈られている。(田所龍一)
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