原爆症におびえる日々 あの惨状を語り継ぐ 直接被爆したAランク、いつ発症するのか… 話の肖像画 元プロ野球選手・張本勲<2>
産経ニュース / 2024年12月2日 10時0分
《『一発の原子爆弾が、無差別に多くの命を奪い、生き残った人々の人生も変えました』―広島平和記念資料館のホームページにある言葉。被爆者の遺品や被爆の惨状を示す写真や資料などが展示されている》
還暦(60歳)を過ぎたあたりですかね、今から20年ほど前からです。自分が被爆者であることを話し始めたのは…。あまりにも〝あの戦争〟を知らない人が多すぎる。これは後世に語り伝えていかなければいけない。ちょうどそのころ、平和記念資料館にも足を運びました。
その前に立っただけで手が、足が震える。胸が締め付けられました。〝あの時〟のことがよみがえってくる。あの恐ろしい光景がね。上の姉さん(点子さん)のことが重なるんです。私はまだ5歳と小さかったから、記憶があまりないですが、そのことは覚えている。
勤労奉仕先で被爆し、行方が分からなかった姉が、何日かたって赤十字の担架で運ばれてきた。全身やけどですよ。(変わり果てた)姉は「痛い、熱い、苦しい」と言ってね。母(順分(スンブン)さん)は一晩中寝ないで見ている。自分の娘ですよ。うちの母は気丈な人でした。もし私の娘だったら、気がふれておかしくなっていると思う。それほど悲惨だった。でも原爆の怖さは、それだけじゃない。
《広島市のホームページには『放射線による急性障害が一応おさまった昭和20年12月末までに約14万人が亡くなられたと推計しています。8月6日原爆投下当時、広島市には居住者、軍人、通勤や建物疎開作業への動員等により周辺町村から入市した人を含め約35万人がいたと推定…』とある。被爆者の多くが、後遺症に悩まされる…》
いつ出るかおびえている自分がいる。後遺症です。84歳になってもね。年に1度は健康診断をしますよね。検査の1週間くらい前から、「もしかして、何か異常が出るかもしれない」って。体験した人じゃないと、この気持ちは分からないですよ。風邪をひく、咳(せき)をすると、ひょっとして原爆症じゃないかって。被爆した誰もが体験する。
いまでも思ってますよ、よくぞここまで生き延びたなって。これまで何人も、何十人もの友人たちが、被爆から時間が経過した20代、30代で亡くなったのを見てきた。だから、もしかして出てくるかも…と今でもね。
被爆者には状況によってランクがある。直接被爆した人はAランク、投下から2週間以内に広島に入ってきた人はBと、4段階ある。私は一番重いAランクですから、何があるか分からないんです。ただ山(比治山)の麓にいて助けられた。これ、運命ですかね。
《平成28年5月27日、当時の安倍晋三首相とともにオバマ氏が米大統領として初めて広島を訪れた。同29日放送の「サンデーモーニング」(TBS系)に出演した張本さんは、「よかったね。ホッとしましたよ」と。「許しませんよ。朽ちるまで許すことはできないけどもね。(原爆を)やったほうのトップが来てくれた。私、個人的にはね、安倍ちゃんが総理でよかったね」と感想…》
そりゃ(原爆は)許せませんよ。でも今年のノーベル平和賞もそうですが、(オバマ大統領の広島入りで)戦争の悲惨さを改めて世の中の人たちへ広く知ってもらえたとは思いますね。
(いまのロシアのウクライナ侵攻、中東紛争など)領土問題にしても「ここまでは…」「いや、ここまではダメ」と時間をかけて(交渉を)やらないで、言うことを聞かないなら、武器を持って爆弾を持って、純粋で汚れなき子供を犠牲にするってのはどういうことでしょうか。人間が営む世界では、絶対にあってはならないんです。
《張本さんの2番目の姉・小林愛子さんも被爆証言で〝あの日〟を伝え続けている》(聞き手 清水満)
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