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誤れば死もある「瞬時の判断」 戦車に狙われるも瞬間的にシャッター、吹き飛ばされる 話の肖像画 報道カメラマン・宮嶋茂樹<27>

産経ニュース / 2024年7月28日 10時0分

1.7キロ先の橋上で砲身を向ける米軍の戦車(左)。次の瞬間、爆発音とともに吹き飛ばされた。命懸けで撮ったスクープだ =2003年4月、バグダッド

《誰よりも早く現場へ。取材対象にはできる限り迫る―。強い思いで世界を駆け巡ってきた》

30代まではほとんどの紛争地に出向きました。現在よりも戦争や紛争が頻繁にありました。これだけ多く争いの現場を取材した日本の報道カメラマンは、あまりいないと思います。フリーになって、取材場所を自分で選べるようになったのが大きかったです。また、当時は大きな現場を取材すると、すぐに単行本が出せる時代でもありました。

取材で出かけた国の数は30を超えたあたりで数えるのをやめました。多分、100カ国ぐらいじゃないかな。何度も行った国がある一方、南米や北欧はほとんど足を運んでいません。中東やヨーロッパが多いですね。1回の出張がそれほど長くないので、これまで海外で過ごした期間は、全部合わせてもせいぜい5~6年だと思います。

《命の危険にさらされたことも少なくない》

2003年4月、イラク戦争を取材中、首都バグダッドのホテルの15階で、自分がいた部屋から3つ横の部屋に戦車砲が撃ち込まれました。砲撃したのは米軍です。このときはチグリス川に架かる橋を挟んで激しい戦闘が続いていて、ホテルのベランダから約1・7キロ先にある、その橋が見渡せました。

イラク側民兵は橋を渡ろうとする米軍の戦車を狙って、RPG7(対戦車ロケット砲)を次々と発射。この様子を撮影中、橋の上にいるM1戦車の砲身が自分の方向に向けられたのに気付きました。瞬間的にシャッターを切り、身を隠しました。「死」が現実味を帯びました。ベランダの壁の陰に身を潜めた瞬間、耳をつんざく爆発音とともに顔面に破片が飛んできて、吹き飛ばされました。

やられたのはロイター通信の部屋で、カメラマン2人が亡くなりました。人間が即死した現場の惨状は忘れられません。ただ、砲撃を受けたときはショックでしたが、イラクに関してはフセイン政権が倒れた後の混乱で生じた暴動や略奪に巻き込まれる方がもっと怖かったです。

《長く取材を続けていても、ひとつとして同じ現場はなかった》

取材前に可能な限り準備をしていても、〝結果オーライ〟の仕事ばかりでした。紛争地の取材では瞬時の判断を迫られ、それを誤れば人質にされたり最悪の場合は死ぬわけです。戦時下のイラクもウクライナもそうでした。事前に用意するものはケース・バイ・ケース。やってはいけないことも国によって違います。現地入りしてみたら、事前に調べたことと状況が全く異なることも珍しくありません。常に臨機応変さが求められます。

《年齢を重ねて体力が落ちてきた昨今、心境に変化が…》

体力的な問題が生じて現場に行けなくなったら、それがカメラを置くときでしょうね。加齢やケガなどで歩行が不自由になったり、病気で遠出ができなくなったりとか。年齢的には「健康だったらまだやれる」と思いますが、近頃は精神面が重要な気がしてきました。プロスポーツ選手が引退のとき「肉体的、精神的に限界を感じました」という言い方をしますが、若いころはこの気持ちが分かりませんでした。

最近思うのは「精神的限界」とは、悔しさを感じなくなることじゃないかと。「あいつがこんな写真を撮って悔しい」などの感情がわかなくなったときですかね。ただ、今は「まだまだ写真を撮っていたい」というのが本音。それだけに、新しい技術を積極的に取り入れる努力は惜しみません。(聞き手 芹沢伸生)

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