駄菓子屋で就労体験、仮想空間に居場所 東京・江戸川区の「ひきこもり」支援
産経ニュース / 2024年11月8日 21時24分
ひきこもり状態の人や家族らを支えようと、東京都江戸川区は当事者が社会や仲間とつながる仕組み作りに力を入れている。自立支援として1日15分から就労体験できる駄菓子屋を開いたほか、対面での相談に抵抗のある人向けに、インターネット上の仮想空間「メタバース」で顔や名前を出さずに参加できる居場所を設けたり、通信アプリ「LINE」を使った相談窓口を始めたりして、多様な支援を展開している。
思い思いに過ごし
都営新宿線瑞江駅近くにある区営の「駄菓子屋居場所 よりみち屋」は、店内の奥に、ゲームや読書など思い思いに過ごせるスペースがあり、不登校やひきこもり状態の人たちが居場所を求めて訪れている。
昨年1月にオープン。精神保健福祉士や社会福祉士、ひきこもりの経験があるスタッフら10人が運営している。区内のひきこもり当事者を就労体験で受け入れており、1日15分から3時間(週最大9時間)、最長6カ月間働ける。それぞれの生活リズムに沿って調整する。履歴書は不要で、昨年度は7人が体験した。
継続的なフォロー
今年5月まで就労体験した男性(24)は「働く上での基本的なマナーも学ばせてもらい、徐々にステップアップできた」と話し、生き生きとした表情を見せる。
男性は中学校でいじめを受けて不登校となり、通信制高校に進学。進路を決めずに卒業し、外出はときおり買い物に行くだけの生活を送っていた。ひきこもり状態が4~5年ほど続き、「漠然とした焦り」を感じて社会復帰に向けた一歩を踏み出したという。
就職を試みたが書類選考で落ち、当事者への理解もあるという安心感からよりみち屋に足を運んだ。昼夜逆転の生活だったが、週2回1日30分から働き始め、最終的に3時間まで延ばした。清掃や接客のほか、パソコンで店頭のポップ広告を作るなど特技も生かせた。男性は「急に一般企業で働いていたら、ついていけずにいろいろと崩れてしまったと思う」と振り返る。
よりみち屋の店長で、区から運営を委託されているホワイトビアード(同区)の石川玲子さん(41)は「本人の特性を丁寧に聞き取った上で、体験してもらう。一般企業とのギャップがあるため、ホワイトビアードでの中間就労も4月からスタートした」と話す。体験終了後に企業などで働き始めたい人には、区のひきこもり相談支援員が希望する職種の仕事を案内したり、就職後も電話で近況確認したりと、定着の支援もする。
オンラインを活用
ひきこもりの問題を巡っては、区が令和3年度に行った実態調査で、人口約70万人の同区で約1万人がひきこもり状態にあることが判明した。短時間でも働ける環境など、当事者が就労に関する支援を求めていることも分かった。
区はこれらの調査結果を受け、よりみち屋を開業したほか、オンラインを活用して当事者の社会参加を促す取り組みも始めた。メタバース上に居場所を作り、事前に決めたテーマについて話し合うイベントで、参加方法はオンラインか、リアルの会場に出向くか選択できる。会場に訪れる人も増えているという。
また、より相談しやすい環境を作ろうと、今年7月にLINEの相談窓口も開設し、専門の支援員が相談に応じる仕組みも始めた。すでに13人の当事者や家族から相談があり、うち4人が支援につながった。
区福祉部生活援護管理課の高橋徹成課長は「さまざまなツールを使って一人でも多くの当事者とつながることが大切だ。まずは社会とつながるきっかけをつくることが必要と考えた」とし、「家族からの相談も併せて対応し、支援していきたい」と述べた。(王美慧)
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