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同志の息子と伊香保温泉に さして話さずとも緊張しない家族旅行 家族がいてもいなくても 久田恵(822)

産経ニュース / 2025年1月28日 9時10分

イラスト・ヨツモトユキ

昨年末に息子に誘われ、群馬県渋川市の伊香保温泉に出かけた。彼としては「1人暮らしの母」を年末年始、ほったらかしにするのもなあ…と思い、気を使ったらしい。でも、私としては、1人で暮らしているのは自分の選択なので、格別、それを寂しいとは思ってはいない。

そもそも、私が38歳のときに母が脳血栓で倒れ、老いた父を助けるために子連れで実家に戻り、延々と続くように感じられた介護を経験。その後、母の介護を通して知った東京都練馬区の高齢者ホームのすぐ近くに、家族全員で引っ越してきたのだ。

そのときは、すでに母子家庭だった私。子連れでどこへでも気軽に行けます、という状況だった。ともあれ、お気に入りのホームになんとか母を託し、私は働きながら老父と息子と3人で暮らしていた。私も大変だった。が、息子も大変だった、と思う。最後は、2人で老いた父を看取(みと)ることになった。母と子ではあったけれど、いわば天から降ってきた人生を共に生き抜く同志みたいな関係だった。そんな息子と2人で、久しぶりに旅に出たわけで、こんな日もあるんだなあ、と、なんだかしんみりした。

伊香保温泉に行くのは、初めてだったけれど、びっくりするほど東京から近く感じられた。しかも、伊香保は古くからある温泉地で、その地名は『万葉集』にも織り込まれているそうだ。そのひなびたたたずまいが、しみじみとした郷愁を感じさせる。

温泉は、石の階段を上り詰めたところにあり、宿泊客はみな、車を旅館の人に託して、階段を上っていく。息子は、昔からなぜかこういうひなびた温泉が好きなのだ。彼らしい、と思いつつ宿に到着。それからは、それぞれ好きに温泉を楽しみ、宿の夕食を向き合って食べた。

家族との旅は、さして話さずとも緊張もなく、お気楽なのがいいな、と思う。(ノンフィクション作家 久田恵)

ひさだ・めぐみ

昭和22年、北海道室蘭市生まれ。平成2年、『フィリッピーナを愛した男たち』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。介護、子育てなど経験に根ざしたルポに定評がある。著書に『ここが終の住処かもね』『主婦悦子さんの予期せぬ日々』など。

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