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編集者、管理栄養士、保健師…ダウン症の子を育てる親たちが目指す「壁のない社会」

産経ニュース / 2024年6月21日 8時34分

企画、編集した本を持つ東京ニュース通信社の中山広美さん(高久清史撮影)

ダウン症の子を育てる親たちが同じ境遇の後輩家族の支えになろうと活動している。編集者は悩みに寄り添う出版物を手がけ、管理栄養士は実体験に基づくアドバイスで支援。保健師は家族のニーズが分かる看護師育成に向けて一時、大学教員として働いた。ダウン症だけでなく、さまざまな病気、障害を抱える人たちのために「壁のない社会」を目指した地道な取り組みが続く。

当事者側から発信 書籍化に挑む

今年3月、ダウン症の次女を育てる大阪府のガードナー瑞穂さんの絵本「もし ぼくのかみが あおいろ だったら」と、実体験を生かしてダウン症の子育ての悩みに寄り添うエッセー本が東京ニュース通信社から発行された。企画、編集したのは同社の中山広美さん=横浜市=で、自身もダウン症の長女(9)を育てる。

昨年9月にガードナーさんの手作りの絵本を紹介する読売テレビの番組が放送され、それを目にしたことが発行のきっかけとなった。絵本は子供が親に髪が青色だったとしても好きでいてくれたかなど質問する中で障害についても問いかける内容で、中山さんは「障害児の親としてインパクトのあるストーリーだと感じ、広く伝えたいと思った」と振り返る。

中山さんは長女出産の際、ダウン症だと分かった当初は「夫婦で途方に暮れ、泣き暮らすみたいな感じだった」。だが長女がみせるかわいい表情、しぐさと接する中で愛情が深まった。絶望感は2週間ほどでなくなり、3歳年上の長男のときと同じ喜びに包まれたという。

子育てのために必死に情報をかき集めたが、頭を悩ませたのは仕事との両立だった。周囲から「働くなんて考えてはダメ」などと言われ、保育園探しでもダウン症を理由に立て続けに断られた。運良く保育園が見つかり復職できたが、「ちょくちょく社会の壁、心理的な壁に直面した」。ママ友の「一緒に遊ぶと勉強になる」という言葉に「学びの教材みたい」と感じたこともある。

障害児の親の集まりで知り合った人たちが当事者団体を立ち上げるなど積極的に活動し、自身もずっと出版物を出したいと考えていた。ガードナーさんとの打ち合わせは共感しあいながら進み、絵本だけでなくエッセー本も提案。「数ある出版社の中でも状況が分かってくれるあなたで良かった」と感謝されたという。

「社会にはまだまだダウン症に関する情報が足りず、当事者側からも発信しないといけない」。今後も編集者の立場として書籍化に挑戦していく。

苦悩を経験して支援する側に

食事に困難さを伴う子供のサポートに力を入れる管理栄養士、大竹友里恵さん=横浜市=は自身が苦悩した経験から、支援する側に回った。

平成26年に出産した長男(10)にダウン症があり、先天性食道閉鎖症という合併症を持っていた。一般的な離乳食へのステップは参考にならず、戸惑いの連続だった。長男は食卓で食器を投げるなど動き回り、大竹さんは管理栄養士の立場ながらも「悪戦苦闘し、涙を流しながら、ぐちゃぐちゃになった」。

神奈川県立こども医療センターの偏食外来で相談し、悪循環から抜け出せた。医師の指導のもと食卓風景を撮影すると「自分が怖い顔をしていることに気付いた」。焦らず一つ一つ課題に向き合った。食器が投げられないようにする方法を医師と一緒に考え、きれいに拭いた食卓の上にペースト状の食べ物を載せた。食事の仕方が改善されるたび医師に褒められ、救われた。

病院、施設の外で実体験に基づくアドバイスができる管理栄養士がいれば助けになると考え、5年前から交流サイト(SNS)などを通じ相談を受け付けている。現在は健康食品などを手がける福岡市の会社「mog」の社員も務め、活動の幅を広げる。

4月には同じ境遇で子育てに奮闘する管理栄養士から「いつか私も誰かの役に立ちたい」とメッセージが寄せられた。自身の役回りに手応えを感じたといい、「これからも、無理をせずに前を向く存在でありたい」と笑顔をみせる。

パイオニアの声 地域作りに

神奈川県の保健師、清水裕子さんは平成20年、ダウン症の長男(16)を出産した。長男は耳が聞こえないため、幼少のころはとくに付き添う時間が長かった。当時、保健師として働いていた横浜市の職場でも「迷惑をかけてごめんなさい」と謝ることが多くなり、障害児の育児と仕事の両立に疲弊し退職した。

「どんな子供でも育てる自負はあったが、職業人としての人生への影響を受けたと考えてしまった」

ほどなくして看護学部を新設した大学の任期付き教員募集を知り、転機を迎えた。それまでの経験から、保育園やデイサービスなどに医療的ケアができる看護師がいれば受け入れが広がるといったことを学生たちに伝えたいと強く思い、手を挙げた。

「色々な子供たちが地域にいて、看護師を必要としている」。実習などで実体験を交えながら現状を伝え、一部の学生にはダウン症児らが参加する県内のウォークイベントにも携わってもらった。

現在は行政の立場から、若年性認知症や難病などを担当し、当事者、家族の声を地域作りに生かす役割を担う。「当事者たちは一人一人がパイオニア(先駆者)。その声が社会、地域の在り方を変えるきっかけになる」と話す。(高久清史)

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