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「難民支援、日本の立ち位置は強みに」UNHCR駐日代表、伊藤礼樹氏インタビュー

産経ニュース / 2024年6月24日 8時0分

世界の難民情勢や日本の難民政策について語る国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表の伊藤礼樹氏=19日、東京都港区(酒巻俊介撮影)

世界の主要な紛争地などで30年以上、難民支援に当たってきた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表の伊藤礼樹(あやき)氏(57)が、産経新聞の単独インタビューに応じた。国際秩序の変化に伴い難民を巡る状況が急変する中、「ただ『守る』というだけでは解決できず、どれだけ理想と現実を近づけるかだ」と指摘。「日本の世界的にユニークな立ち位置を生かすべきだ」とも提言した。

――難民支援を志したきっかけは

「大学院修了後、内定企業に就職するまで時間があり、国連ボランティアとして紛争中のボスニア・ヘルツェゴビナに入った。その際、現地で民兵に追われる50人ほどの集団に遭遇した。安全な場所まで送りたいと考えたが、民兵は『女性と子供以外は置いていけ』という。一人でも多くを救うため言い分を飲まざるを得ず、苦渋の決断だった。その後、内定を辞退し、この世界に入った」

――難民支援の実情は

「命からがら祖国から逃れた人に、帰れとはいえない。難民の権利を認めるという原則はあり、『難民を守れ』というのは簡単だ。ただ、現実にはさまざまな理由で100%守られていない。われわれの仕事は、現実をどれだけ理想に近付けるかだ」

――シリアや隣国レバノンにも駐在した

「アサド政権のシリア、人口の4分の1にあたる150万人のシリア難民を受け入れたレバノンは難民の帰還を求めていたが、欧米諸国は大規模な帰還はアサド政権を正当化するとして反対していた。難民には徹底して意向を聞き取り、帰還後もケアする一方、西側諸国やレバノン、シリアの複数の部署と密に接触し(両国の)建前と本音を見極めながら、難民の保護につなげた」

――国際秩序の変化は難民にどう影響したか

「それまで20年ほど横ばいだった難民や国内避難民は(シリア内戦が起こった)2011年以降に増え続け、1億人を超えた。グローバルサウスの台頭で西側諸国の比較優位が弱まって国際社会の足並みがそろわず、問題解決が長引くようになった。元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんが言っていた『人道問題に人道的解決はない(難民問題には根本的原因の政治的解決が必要である)』という事態が生じている」

――欧州における反難民、反移民の動きをどうみるか

「選挙の影響も大きいと思うが、移民・難民問題を一部の政治家が意図的に使って恐怖を煽り、SNSが助長している。ある程度の懸念は理解できるが、自国への流入を抑止することのみを目指した政策ではなく、難民の出身国、避難先の国、その避難途中での支援・保護の枠組みも重要だ」

――日本国内の難民の状況はどうみているか

「難民認定されているのは申請者の4%ほどだが、(条約上の難民ではないが難民に準じて保護する)補完的保護対象者なども含めれば20%ほどが保護されている。EU諸国ではその2倍以上だが、海に囲まれた日本と地続きのEU諸国とは文脈も申請者の背景も違い、単純に比べても建設的な議論ができるとは限らない」

――日本の難民政策・議論をどう評価するか

「世論は難民への関心が薄く、(受け入れか排除かの)極端な二元論に偏っている印象がある。難民認定の解釈を広くし、認定プロセスを改善することだ。透明化し、効率的で効果的にすることで保護が必要な人は迅速に措置し、不要な人には帰国など別の解決が見つけられる。就労目的で難民申請される懸念があるなら、就労目的に沿った受け入れ制度を改善するといった取り組みが効果的ではないか」

――埼玉県川口市の一部地域で、市民とクルド人との間で軋轢(あつれき)が生じている

「クルド人が出身国で迫害されているかいないか、という簡単な二元論では語れない。どこの国の申請者であれ一人一人の個別事情などを審査しなければ迫害の有無は分からない。プロセスがしっかりしていないから、いろんな問題が起きる」

――日本にとって難民問題はなぜ他人ごとではない、といえるのか

「非常に難しい質問だ。ただ、紛争などで生じる難民問題を解決することは、地域や世界が『非秩序化』するのを防ぐことにもなる。難民対策を名目に政治的影響力を伸ばそうとする勢力に対抗する意味でも、難民の支援・保護は日本の国益にもつながるはずだ」

――日本ができることは

「日本は世界的に(グローバル・サウスなどの文脈で使われる)『北側諸国』『南側諸国』とも、(資本主義など経済思想の文脈で使われる)『西側諸国』『東側諸国』とも言い切れない。世界でユニークな立場にある強みを日本は発揮できる」(聞き手 荒船清太)

いとう・あやき 1966年生まれ、東京都出身。コロンビア大大学院で国際関係学修士を取得。国連ボランティアとして国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のボスニア・ヘルツェゴビナ事務所で活動したのを機に、日本政府のJPO制度を通じてUNHCRのミャンマー事務所で正式なキャリアをスタート。スーダン、アルメニア、ソマリアなどでも難民保護に携わる。UNHCR本部(スイス)でアジア太平洋地域局次長などを歴任。UNHCRのシリア代表、レバノン代表を経て、昨年1月から駐日代表。

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