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「最も売れてる」期待に応えなきゃ ヤマトタケルの霊退治? 壮大なテーマを楽しく 話の肖像画 喜劇役者、劇団SET主宰・三宅裕司<18>

産経ニュース / 2025年1月19日 10時0分

「スーパー・エキセントリック・シアター(SET)」の第17回公演「丸越万太シリーズ第5弾 超絶技巧殺人事件」=昭和59年

《公私に絶好調の三宅裕司氏。ホームグラウンドである舞台でも人気が急上昇した》

昭和55年4月、スーパー・エキセントリック・シアター(SET)の旗揚げ公演は、定員200人弱の東京・池袋のシアターグリーンですら満員になりませんでした。ところが、「ヤングパラダイス」(ニッポン放送)が始まった59年春、三百人劇場(東京都文京区)で初上演した「ディストピア西遊記」は観客動員が5千人を超え、翌60年10月に東京・池袋のサンシャイン劇場で初演の「日本武尊幻影星人(ヤマトタケルノゴーストバスター)」では1万5千人に達しました。

「最も売れている劇団」「チケットの取れない劇団」といわれるようになりました。

《「ディストピア―」は、旅をする三蔵法師が村人に捕らえられてしまい、助けに行ったゴクウらも逆に捕まって―。「日本武尊―」はヤマトタケルが東国征伐ではなく、霊退治をする―というふうに、知られたストーリーを大幅に書き換えた。いずれも大沢直行作、三宅裕司演出》

このころのSETは作家の大沢直行君の壮大なテーマをいかにして楽しくお客さんに観てもらうかを考えてのミュージカル・アクション・コメディーでした。

《「メガ・デス・ポリス」のように核戦争後のシェルター都市で老人ホームの居住者だけが生き残り、試験管ベビーを育てる、といったストーリーもあった》

爆笑ギャグの連続、歌やダンス、迫力のアクションシーンなどでお客さんを楽しませながら一気にラストまで持っていき、後から社会性のあるテーマに気づいてもらう。この作品の作り方がどんどん形としてまとまってきて、評判になったのではないかと思います。

最初は作家が書いた脚本にアドリブでギャグを入れるなどしていました。僕と小倉久寛君のシーンなどは脚本なしでやっていました。

でも、このころから、全部脚本を書くようになりました。そのほうが早いんです。そこから脱線することもおもしろくなって、すぐ戻ればテンポも崩れないし。アドリブでやっているころは、いい日と悪い日の差が大きいんです。それをなくすために脚本をきちっと全部書こうということになりました。

僕はSETを作ったときに、酒を飲むたびに「将来は必ず給料制にする」って言っていたらしいんですよ。「らしい」ですけれど、そういう気概は強く持っていました。

ついに、ちょっと売れてきました。お客さんは期待します。

「次はどういうのをやるのかな」

その気持ちをひしひしと感じるわけです。

「次もいいものをやらなきゃいけない」

いいものをやるには、一人一人のレベルを上げなければいけないわけです。しかし、劇団は食っていける場所ではないので、団員はアルバイトに時間を割きます。

でも、ダンスシーンでダンスのレベルを上げるにはレッスンをやらなきゃいけないですよね。歌のレベルを上げるには歌のレッスン、芝居には芝居のレッスン、笑いにはコントのレッスンをやらなければならない。その時間を確保するにはアルバイトをやめなければいけない。そうすると生活ができない。

劇団のレベルは上がっても、生活ができなければ、みんな劇団をやめてしまいます。困りました。(聞き手 慶田久幸)

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