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対外発信はまずは聞き、TPOで 話の肖像画 元駐米日本大使・藤崎一郎<7>

産経ニュース / 2024年9月7日 10時0分

駐米大使室で緒方貞子さん(元国連難民高等弁務官)と面談

《日本は海外への情報発信が下手だ、とよく言われる。海外で情報発信に携わってきて、どう感じるか》

旧知の仲だった緒方貞子さん(元国連難民高等弁務官)が、「日本人は発信下手と言うけれど、実は受信下手」と話され、意気投合したことがある。日本人の多くは英語力の不足もあり、会話を日本という土俵に引きずりこもうとする。だが、行き過ぎは禁物だ。

たとえば、鹿児島の人と会ったとする。話題が前回は西郷さん、今回は桜島、次は知覧の武家屋敷や平和公園、次は芋焼酎ときたら、ひいてしまうだろう。もちろん、日本が本当に好きな人もいるが、お世辞で関心を示す人だっている。

最近の若い人は判で押したように、外国に行く前にしっかり日本の文化を勉強したいと言う。だが、日本文化ってなんだ。茶道、華道、書道、能、歌舞伎、舞踊、邦楽、着物、建築、庭園、武道…キリがない。自国の文化に習熟してから国外に出ようなんて考える外国の若者はいない。とにかく早く外国に出かけてみたらいい。

行ったら自分の話ばかりせず相手や相手の国に関心を示すことだ。たとえば米国人のオフィスにはよく家族の写真や要人との会見の写真が飾ってある。これはその人がこれについて話してもいいよとのサインと考えていい。ところがいっこうに関心を示さず、自分の旅程などばかり話す人が多い。もったいないと思う。世の中、他人のスケジュールに関心がある人などいない。新しい街に行ったら手頃な現地料理の店を聞くと盛り上がる。オリンピックでもテイラー・スウィフトでもいい。共通の関心を見つけることだ。相手がまた会いたいなと思ってくれるかどうかがカギだ。

《日本政府は、戦時中の慰安婦や朝鮮半島労働者などの歴史問題について積極的に発信してこなかった》

これらの問題について事実関係をきちんと説明して国際社会に誤解を生まないようにすることは重要だ。黙っているだけでは一方的に不利になってしまう。若い時、外交官というものは自分の国が会議の場で侮辱されたら立ち上がって反論するかコップを机にたたきつけて退場しなくてはいけないと、先輩に言われたことがある。私は絶対退場してはいけないと思うが、いつどのように反論を打ち出していくかは、わが国にとって何が得策かということで判断すべきだ。いわゆるTPOだ。

駐米大使当時、ワシントンの日本語学校で生徒たちにこう挨拶した。「お父さんやお母さんからの受け売りの知識で中国系や韓国系の生徒たちと尖閣や竹島について論争しなくていい。そんなことは大人にまかせておいて、とにかく中国系や韓国系の子たちと友達になってください。その方が将来、君たちのためにも、日本のためにも役に立つよ」

この考えはいまでも変わっていない。

《英語ニュース・オピニオンサイト、JAPAN Forwardは、歴史問題を含め、日本の素顔や魅力を世界に知ってもらおうと約7年前に本紙の支援を受けてスタートした。期待することは?》

日本について、客観的、中道的視点で報道することが信頼感を高めるゆえんだと思う。論調について読者に予断を持たせないのがいい。そして英語で発信できる若い日本人の論客を育てる場になるといい。時に立場の違う人たちの論争の場になると面白いのではないか。

私は、これまでも日本を発信するメディアには誘われれば参画してきた。NHK国際放送番組審議会委員長、ジャパンタイムズ紙面審査会の委員、BBC番組審査委員も務めてきた。JAPAN Forwardで理事を務めているのは右のような考えからだ。(聞き手 内藤泰朗)

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