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ノーベル賞で世界に注目された被爆証言 謝礼金補助を一律制度化できない広島市のジレンマ

産経ニュース / 2024年11月12日 8時0分

ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の地方組織、広島県被団協など被爆体験を語り継ぐ被爆地・広島の17団体が10月、講師を務めた被爆者への謝礼金を補助するよう広島市に求めた。一方、公金を扱う市は慎重姿勢を崩さない。講話が「反原発」の講演になってしまう可能性も捨てきれないとして、内容の確認は譲れないが、団体側は反発。いかに折り合いをつけるかが問われそうだ。

〝規制〟に反発

「おたくの証言者には、いろんな規制がかかっている」

団体の代表者らが市平和推進課の担当者に要望書を手渡した10月24日、市側の提案に対し、被爆2世で県被団協の熊田哲治事務局長が反発した。

市側の提案は、団体の証言者に、市の外郭団体「平和文化センター」による被爆の実相や話法技術の講義研修などを経て委嘱を受ける「被爆体験証言者」として活動してもらうというものだ。

修学旅行生らを対象に講話を行うとセンター委嘱の証言者に謝礼金1万200円が支払われる。国と市が全額を補助するため、依頼者の負担はない。一方、各団体は証言者の交通費などで1回数千~1万円程度を依頼者から受け取っている。

団体側は同じ条件の補助制度を求めているが、公金支出となるだけに、補助にはセンター委任の証言者と同様に、市による証言内容や講話に使う写真の著作権の事前確認が必要となる。これが熊田氏の言う〝規制〟だ。

好き勝手には…

県被団協は原爆症の認定基準を定めた被爆者援護法の見直しなども政府に求めているが、熊田氏はこの日、市の担当者に「そういう話はできるのか」と迫り、「私たちには、私たちの運動方針に基づく考えがある。被爆者自身の経験の中でも、政治的なことを含めて思いがある」と訴えた。

市の責務は、被爆体験を後世に確実に継承していくことで、その意味では団体の活動趣旨と大きな開きはない。とはいうものの「好き勝手な話をされて、それに税金を投入するのは市の立場として難しい」(担当者)。

核は人類と共存できない、と考える人がいる。そうした思いが被爆体験と平和への思いだけでなく、原発反対の主張につながっても不思議ではない。もっとも、行政機関として特定の考えに市が与するものではない。

ある市幹部は「例えば被爆体験から、平和について学ぼうと子供たちが広島を訪れて聞いたのは原発否定の演説を含む講話だった-。そんなことが起こらないための措置だ」と話す。

ふさわしい方に

被爆者の平均年齢は85歳を超え、残された時間は多くない。約1年とされるセンターでの研修期間ですら「惜しい」と感じる証言者もいる。団体側からすれば、今さら市の枠組みには入りづらいというのが実情だ。

団体側の証言者には朝鮮半島にルーツを持つ人もおり、「そういうところに重点を置いて語れる人も学校が求めている」(広島被爆者団体連絡会議の田中聡司事務局長)とはいえ、費用がかからなければ、センター委嘱の証言者の依頼だけが増えるとの懸念が強い。

要望に対し、センター会長を務める松井一実市長の見解はどうか。11月8日の記者会見で「われわれとして(証言をしてくださいと)お願いするのにふさわしい方々にわれわれの税金を使って活動していただく」と述べ、センターから委嘱を受けない限り、団体側への補助は難しいとの認識を示した。(矢田幸己)

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