主要国サミットは人間ドック 民主主義や市場経済にほころびが生じていないかを毎年チェック 話の肖像画 元駐米日本大使・藤崎一郎<19>
産経ニュース / 2024年9月20日 10時0分
《経済担当の外務審議官としてサミット(主要国首脳会議)の(首脳に代わって議題調整を行う)シェルパも務めた》
G8サミット(ロシアを外して今はG7)は特別な会議だ。G20やAPEC(アジア太平洋経済協力会議)などと違い、首脳だけの会議で他の大臣や国際機関の長は入らない。首脳同士の丁々発止の場だ。首脳以外で入室するのはシェルパだけ。シェルパ同士の何回かの準備会合も同席者なしだった。
サミットの議題は政治、経済だけでなく開発、環境、疾病など多岐にわたり、宣言は毎年似たような項目が並ぶ。なぜなのか不思議に思っていた。担当になってわかった。サミットは民主主義や市場経済の体制にほころびが生じていないか、問題があればどんな対応が必要か毎年チェックする。いわば人間ドックなのだ。
1年目はエビアン・サミットで初めて首脳宣言に北朝鮮拉致問題を入れた。ホスト国フランスのシェルパが前駐日大使のモーリス・グルドモンターニュ氏で協力してくれた。またイラク復興会議を国連主催で行うことを日本が提案し発表した。事前に国連に行き、事務次長に根回しした。次の年は米国が主催国だった。
日本のウリを何にするか、小泉純一郎首相に相談したら「日本は厳しい排出ガス規制をして自動車輸出大国になった。環境がいい」と言われた。経済局のチームが環境省などと協議し、3R(Reduce=減らす、Reuse=再利用、Recycle=再資源化)提案を作った。小泉首相提案は他首脳の同意を得て3R行動計画が発表された。
サミット本番でシェルパは首脳の後ろの席で記録を取り、当時は机上のFAXで隣室の自国の代表団に送っていた。それをもとに東京への報告、記者団へのブリーフが行われていた。若いときの記録取りの訓練が役に立った。
《2国間の貿易経済協議では受けるだけでなく攻めも》
米国や欧州連合(EU)、中国、ブラジル、アルゼンチン、インドネシア、インド、パキスタンなど多くの国と2国間で協議した。米国との協議では毎年いろいろな自由化要求を突き付けられ、こちらが釈明する形となっていた。私は各省の担当者に「こちらから米側に要求する項目をできるだけ探して準備し、相打ちになる形を考えよう」と言った。途上国での協議の前には現地で進出日系企業と懇談し、匿名を条件に先方政府への要求事項を聞いた。
《FTA(自由貿易協定)交渉の首席代表にもなった》
外務審議官に就任すると、4つの交渉が始まり、そのすべてで代表を務めた。韓国、タイ、フィリピン、マレーシアだ。交渉範囲は多岐にわたるので、代表団は外務省のほか財務省、農林水産省、経済産業省、厚生労働省、国土交通省など各省庁数十人からなる。
全体会議では私一人が発言するが、休み時間を随時とり、各省の代表と発言を調整するなど進め方の原則を私が決めた。バラバラに話すと相手につけ入られるからだ。相手のトップと1対1で会う場も必ず設けた。
各国との交渉は内容が異なるので勉強が大変だった。しかしどの交渉でも何日も朝から晩まで同じ釜のメシを食い、打ち合わせを重ねているとオールジャパンでの一体感が生まれた。ある国の代表が交渉の冒頭、「日本側の代表は調整権限が十分でないので進めるのが困難だ」と発言した。事実でなく失礼だ、と発言の撤回を求めたが応じない。そこで「そういう認識なら交渉を続ける意味がない」と言って日本側参加者に帰ろうと言ったら全員が賛成。ただちに帰国したこともある。
会議や交渉によって各省庁とも担当が違うので、私にずっと同行する者はいない。外務審議官のときは、出張から帰ると新しいファイルを渡され、機内で勉強しながら次の会議に向かい、待っている各省庁の関係者と打ち合わせして会議のヘッドを務める日々の連続だった。(聞き手 内藤泰朗)
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