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「教育格差で東京に人口流出」危機感強める首都圏3県 背景に税収差、国に財源措置要望

産経ニュース / 2024年6月12日 9時0分

神奈川、埼玉、千葉の首都圏3県が、子育て支援に絡み東京都が独自に実施する行政サービスとの「格差」に頭を悩ませている。同じ施策を行おうにも、財源の問題から実現は困難。人口流出などに危機感を募らせる3県は国に対し、自治体間の税収差の解消を訴えている。

基金では足りず

「住んでいる地域により、教育費負担に大きな差が生じている」

5月23日に都内で開かれた関東知事会。神奈川県の黒岩祐治知事は、都が今年度から実施する高校授業料の実質無償化を念頭にこう述べ、無償化を実施するまでの間、国に財政支援を求めた。

千葉県の熊谷俊人知事も「首都圏のような一体性が高い地域では、制度の格差が人口流出やさまざまな不公平感につながる」と同調。埼玉県も賛同の意を示した。

実際、都が打ち出している子育て支援策は、周辺3県と比べ格段に手厚い。今年度の当初予算では、都内居住者を対象にした私立高授業料実質無償化の所得制限撤廃(600億円)のほか、都内在住の0~18歳を対象に1人当たり月5千円を支給する「018サポート」(1245億円)などを計上している。

埼玉県の試算によると、仮に高校授業料の実質無償化と018サポートを同県が予算化した場合、単年度で781億円が必要だが、令和6年度末時点の同県が積み立てた基金の残高見込みは418億円。単年度の事業でも不可能な金額だ。

「税の偏在」原因

3県が都との財政状況を比較する指標として取り上げるのが、収入に対し人件費などの固定的な支出が占める割合を示す「経常収支比率」だ。100%に近づくほど自由な施策に使える予算がなく、財政が硬直化していることを表す。

令和4年度の経常比率は神奈川県は98・5%、埼玉県は96・2%、千葉県は95・1%なのに対し、東京都は79・5%。人口が多く、企業も集中する東京は自由に使える財源が潤沢で、これが格差の生じる要因になっている、というわけだ。

埼玉県の大野元裕知事は5月14日の定例会見で、仮に同様の施策を実施すれば「他の行政サービスが行われなくなる」と強調。「(政策の)優先順位の問題ではなく、税の偏在性の問題に他ならない」と訴えた。

5月7日には、3県の知事がそろって総務省などを訪問し、国に税源の是正措置を求めている。

都知事は反論

こうした周辺3県の不満に対し、東京都の小池百合子知事は、教育や子育て支援策は「大前提として国が責任をもって取り組むべきものだ」と、地方自治体が国に働きかけるべき課題であるとしつつ、都は無償化の財源捻出のために「いろいろと事業の見直しを進めている」と主張。

固定的に支出される経費の中には、道路や港湾整備といった経常的経費に含まれない首都ならではの支出もあり「行政サービスの違いを財政の問題にすり替えるのは自治の観点からどうか」などと、定例会見で2週にわたり説明した。

私立高校授業料の実質無償化は、小池氏自身が国に先駆けて実施する肝いりの政策。ある都政関係者は、7月に東京都知事選を控えていることを踏まえ「首都圏の首長で不協和音が生じている状況は印象がよくない。(小池氏は)ナーバスになっている」と語った。

「自治体任せやめよ」

財政状況が地方自治体の行政サービスの格差を生む現状を、どう是正すべきなのか。

関西学院大学の上村敏之教授(財政学)は「大企業の本社が多い東京に税金が多く入る仕組みになっているので、どうしても税収は偏在化する。ただ、税収の偏在性とは別に公共サービスの偏在性が問題なのではないか」と話す。

「教育や子育て関連の公共サービスは本来は国がやらないといけない。地方自治体に任せてしまっているがゆえの偏在だが、論点が税収の偏在にすり替わっている」とし「国が本腰を入れないため、財源が豊かな地方自治体が実施してしまうところに問題の本質がある」とも指摘。

「経常収支比率は投資的経費を含んでおらず、首都としての特別な行政サービスは数値として反映されないが、実際に子育て支援策を実施できる予算があるのは確かだ。明確に比較できる指標がない中では、哲学論争のように議論として収束しない」としつつ「地方分権化の流れもあるので予算があれば実施したいのが地方自治体の本音だろう。税収の偏在是正もやるべきだが、そもそも国がやるべき仕事を地方に任せている構造にも光を当てるべきだ」と語った。(楠城泰介)

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