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「持続的発展、新たな成長に向け、舵を切る契機の年に」大野元裕埼玉県知事インタビュー

産経ニュース / 2025年1月2日 12時0分

人口減少下でも生産性の向上で持続的に発展させることができる社会を進めたいと話す大野元裕知事=埼玉県庁(那須慎一撮影)

大野元裕埼玉県知事は産経新聞のインタビューで令和7年について、「新たな成長に向け、舵(かじ)を切る契機の年にしたい」などと抱負を述べるとともに、労働生産性を高めていく考えを示した。また、今年県内で実施する全国植樹祭では伐採木を活かす提言をする考えだ。

生産性向上を段階的に

--昨年一年を振り返り、埼玉県としての成果をどうみているか。日本一暮らしやすい埼玉に向けて力を入れて取り組んだことは何か

「一昨年から、埼玉県が直面している歴史的課題に対して、敢然と立ち向かってきた。人口減少、長寿社会の到来という課題。これは人口減少下でも生産性を向上させることで持続的に発展させることができる社会を進めたいという思いで進めてきた。人口が減っても増え続ける高齢者を支えたり、新しい子供を育てるには、人口の労働生産性を高めるしかないという思いでやってきた」

「生産性を高めるためには(デジタル技術を活用し、業務効率化を図る)DX(デジタルトランスフォーメーション)が必要だが、埼玉県の場合は段階的にやることにして、ペーパーレスを実施している。第2段階としてデジタルで業務を効率化するタスクトランスフォーメーション、TXとわれわれは呼ぶが、これに取り組んでいる。埼玉県の場合、今年度は全職員に生成AI(人工知能)とか文字起こしAI、(プログラミングの知識やスキルがなくても、アプリやサイトを作成・管理できる)ノーコードツールが使えるライセンスを与えている。1万3千人規模でこういったツールライセンスを与えている自治体は、多分全国でもないのではないか。こういったデジタルツールを活用して生み出された時間を職員の(自身の能力をアップデートするため、より高度な知識やスキルを身に付ける)アップスキリングに充てるとか、歴史的課題のための考える時間にしたりしている」

循環型は経済性も重要

--資源の効率的・循環的な利用を図る経済活動を指すサーキュラーエコノミーにも着目してきた

「県は、環境を所管している部ではなく、経済を所管する部にサーキュラーエコノミーを担当させている。持続的発展のためには経済性も重要な要素と認識しているためで、昨年11月末の時点で606件の相談を受けて、61件のマッチングを行った。例えば、規格外の『紅赤』というサツマイモと米こうじを組み合わせ、芋みつを開発したりすると同時に、6月には埼玉県のSDGs(持続可能な開発目標)官民連携プラットフォームにサーキュラーエコノミー推進分化会を作って、会員の取り組みを共有したりもした。また、連携の支援もしていて、これは5カ月たった昨年11月末時点で市町村も含めてすでに295社に参加をしてもらい、市町村や企業と連携して使用済みのリチウムイオン電池を安全に回収して再資源化する取り組みなども始めている」

「激甚化頻発化する災害危機も歴史的課題として取り組んできた。昨年1月1日に能登半島地震が起きたが、残念ながら災害は必ず起こるという前提のもとに対応を進めていく。われわれは埼玉版フィーマという警察とか消防、インフラ事業者など関係機関と連携し、地震や水害などそのシナリオごとに当てはめて、対応を作っていくのだが、現在、林野火災のシナリオに作成をしている。しっかりと県が主体でやっていくところだ」

野党躍進は変化の景気

--昨年、10月に衆議院選挙があり、野党が躍進した選挙結果になった

「(派閥パーティー収入不記載事件を受けた)『政治とカネ』の問題に関心が集まり、結果として政治改革に道筋を示せなかったことが大きく響いた。他方、賛成する課題に対して未来へのビジョンを示せなかった野党も政権交代には至らなかった。これからの政権、石破茂首相には、『政治とカネ』、未来へのビジョンの両方が求められているんだろうというふうに思っている」

「こういった中でも、さまざまな課題がたくさんある。アメリカの大統領が変わるとか、朝鮮半島や沖縄の地震、豪雨などの対応もまだまだ必要だし、物価高騰対策もある。待ったなしの議論だと思っている。ただ、少数野党の国会ということは、多くの政党がこれまでと異なって、法案や提案をしたときに審議されるという環境もできているので、これは私は変化の契機としてしっかり捉えるべきだと思っている」

--国会では、所得税が生じる「年収103万円の壁」の引き上げ幅を巡り、議論が活発化している

「103万円の壁議論を契機に、いろんな議論を進めるべき時にきていると思っていて、103万円の壁単独ではあまり意味がなくて、税制全体であったり、年金であったり、保険であったり、働き方であったり、あるいは賃金上昇させるための人材育成であったり、こういった議論を全体として行うことによって、いい方向に進めていただきたい。県もその方向で考えている。いろんな議論をぜひ臨みたいと思う」

「他方、地方自治体としては、石破首相は総裁選の時に地方創生を日本経済の起爆剤と位置づけた。地方の定義を含めてまだわからないところもあるので、新しい地方経済生活環境創生本部、ここでの議論を注視していきたい。それと、今、われわれが望んでいるのは、令和元年度の税制改正で、地域における税の偏在、あるいは子育て支援などへの影響などが令和元年度の税制改正の時に不足で国はこれを見直すと書いてある。当時の一番集中していた東京の徴収額は、当時の額を超えてしまっているので、こういった国の義務を法律に従って果たすべき時だし、子育てについては地域が競争するべきものではなくて、本来国が統一的に実施するべきもので、『こども基本法』にも明記されている。国がやるということについて、大臣などに直接要望していきたいと思っている」

人手不足が喫緊の課題

--県内経済の動向をどうみているか

「県内の四半期経営動向調査を見ると、中小企業の経営は持ち直しの動きが多少ある。ただ、円安ドル高が進む為替水準の行方などに不透明感を感じているところも多いと思う。そんな中でも雇用の過不足感については、人手不足といっている企業の割合が4年連続で増加してきている。今までのように需要を喚起することのみが行政の役目ではなくて、実はサプライ(供給)サイド、生産サイドをどうしていくかということが課せられた課題だと思っている。県では令和2年に強い経済の構築に向けた県戦略会議、これは実は新型コロナウイルス対策で最初に作ったが、新型コロナの過度の経済対策で産官学金労がワンチームで議論できるという枠組みだった。今も続くが、そこで目先の労働生産性、あるいはその物価高対策にはやはり価格転嫁がいいだろうとなった。現在、価格交渉支援ツールというのを県のホームページで無料公開していて、中小企業が取引先と交渉するための、県としてのお墨付きというか、ツールを与えている。今、それが1421品目の中から選べるようになっている」

「また、人手不足が深刻な物流分野については、戦略会議のメンバーに物流業界とか消費者団体を入れた23団体で、埼玉の持続可能な物流の確保に向けた共同宣言などを行った。少しずつ成果は上がりつつあり、今では5割以上転嫁できているという企業が6割を超えた。ただ、埼玉だけでサプライチェーンが完結しているわけではないので、これを日本全体に広げるということで、日本商工会議所とか、連合や政府が埼玉モデルを広めてくれている状況になってきているので、先手先手の対応をしたい」

災害、人口減見据えた対策

--少子高齢化という観点から見た街づくりについてはどう考えているのか

「人口減少、災害の激甚化、頻発化している両方を考えたときに、街づくりから進めなければいけないことというのは多々ある。例えば、高齢化、人口減少が進むと、子どもを育てる人がいないとか、高齢者の足がないとか、あるいは税収が減ることによって結果としてインフラの更新ができないとか、こういったことが出てくる。また、その街づくりをするときには災害を考える必要がある。そこで、こういった課題に街づくりから対応するということで、埼玉県では埼玉版スーパーシティプロジェクトに取り組んでいて、これは街づくりは本来市町村がやるべきものだが、コンパクト・スマート・レジリエントこういった3つの要素を兼ね備えた街づくりをするときに、県が市町村を支援するということで進めているもので、例えば、歩いていける街づくりなどになれば、お互いに見守ることができる、買い物難民ができないとか、そういったことに加えて、そこにスマートの要素を、スマートレジリエントの要素を入れることによって、そこにいると安心な街づくりができる。こういったさまざまなものを、それぞれの地域の特性に合わせてやっていただくということで、63の県内市町村のうち、現在このプロジェクトに46まで参加してもらえることになった。残りの17も意向としてプロジェクトに参加したいという意向が示されており、できるだけ早期に全市町村にエントリーをしていただきたいと思っている」

「県ではエントリー団体ごとに県庁内の関係課を組み合わせた事業化支援チームというのをオーダーメードで作って、それぞれの地域課題に合わせた伴走型の支援を行うとともに、プロジェクト推進の補助金も作っていて、まちづくりに向けた調査だとか地域拠点の施設整備、こういったものをやってもらうと同時に、まちづくりの時には民間企業も入ってもらうべきだと思うので、そこで官民連携のための応援企業と登録制度を設けるとともに、交流会をしたり、ガバメントピッチをやっていて、それに対して戻ってくるさまざまな企業の声をつなぐとか、こういったさまざまな官民の連携の取り組みを行いながら、プロジェクトの取り組みを、市町村を全庁を挙げて支援していこうと思っている」

お試し移住をアピール

--県内では人口減少に苦しむ市町村もある。中には過疎化が進むところもあり一律の取り組みでは支援が難しい

「県内は、都市もあれば田舎もある。人口の減少が著しいようなところについては、それぞれ工夫する余地がある。例えば郊外の中でも一例を挙げると、廃校になった学校を利用して、そこに高齢者が集まることができる施設に、一緒にさまざまなショッピングとか機会ができるとか、こういったことを作れるなどの工夫をしてもらっている。それと同時に、空き家が増えてくるとセキュリティーの問題も含めてさまざまな問題が出てくる」

「今空き家防止のプロジェクトもしているが、例えば越生町では、都内で暮らしていた夫妻がカフェをやっているが、決断する前には、移住したいが、収入が途絶えるとか悩んでいた。そこで起こったのは、妻がカフェをやって、夫はそこから通って東京で働くという選択だった。つまり、埼玉県はお試し移住ができる。埼玉県の交通の便の良さのおかげで、そこは一生懸命アピールしたい」

66年ぶりの全国植樹祭

--今年やらなくてはならない課題や取り組みについては

「人口減少、長寿社会の到来と激甚化頻発化する災害危機の2つの歴史的課題に対する対応は、これは引き続きやっていく。2030(令和12)年とか40(22)年を見据えながらになるが課題を的確に捉える。こういった中長期的な施策をするし、しかも歴史的な転換点なので、これまでの経済や働き方、さまざまなものを変えなければいけない。こういう取り組みは一切変わることはないし、一層加速させなければいけないと思っている」

「そういった中で、埼玉県5カ年計画というのがあって、これがいま4年目で、その計画にある12の進路とか、50の案の分野別施策に関わるものを推進していく。その結果として、日本一暮らしやすい県に実現、つなげていくということだと思っている。あと、今年は66年ぶりに、本県として開催となる全国植樹祭が、5月25日に天皇皇后両陛下のご臨席をいただいて、秩父と小鹿野町にまたがる秩父ミューズパークで行われるのだが、これを機会として、実は植樹も大切だが、埼玉県の木は8割以上が伐採木になっていて、木を使えてない実情もある。伐採木になると二酸化炭素の排出量が多いので、そういった意味で環境のみならず産業という意味でも、こういった木を生かす活樹というものをこの植樹祭で埼玉県に提言していきたいと思っている」

「また、(深谷市出身の現代資本主義の父といわれる)渋沢栄一翁が昨年7月に新一万円札の顔になったが、名前にあやかって、『渋沢ミックス』というのをさいたま新都心駅ビル直通のビル内に作る。そこでわれわれも新しいイノベーションや持続的経済になっていないものを、うまく作れるようなことに力を入れていきたい。そういった施策は一朝一夕に実現しないので、分かりやすく説明していく。いずれにしても25(7)年は蛇(へび)が脱皮する新しい姿に生まれ変わるということなので、持続的な発展、新たな成長に向けて、ずっと舵(かじ)を切っていけるような、そんな契機の年にしたい」(聞き手 飯田耕司)

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