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赤羽キャバレーの熱帯夜 「17才」に涙 ロック演奏の「ゴーゴータイム」でドラムの特権 話の肖像画 喜劇役者、劇団SET主宰・三宅裕司<6>

産経ニュース / 2025年1月7日 10時0分

大学のジャズバンドではドラムを担当した

《明治大学に入学早々、失恋し、キャンパスライフは悲しいスタートとなった三宅さん。だが、大学で知り合った仲間と、ジャズバンドを組むことになった。その名も「レッド・フライング・ディスク」》

大学生ですからアルバイトしないとやっていけない。バンドでのアルバイトは割がいいので、1年生のときからいろいろな会社のビアパーティーなどで演奏をやっていました。

クリスマスパーティーが一番の稼ぎ時ですけど、仕事がちゃんと来ないので、知り合いのつてを頼って演奏していました。

大学にはいろいろなやつがいて、芸能事務所に進みたい学生がキャバレーなどで演奏するバンドの斡旋(あっせん)をしていました。大学2年生の夏、そいつから「8月の1カ月間、赤羽(東京都北区)のキャバレーで演奏のバイトをやってみない?」って言われ、軽く請け負ったのです。

《カラオケのない当時、大型キャバレーは生バンドを入れて演奏させるのが定番だった》

メンバーに「あこがれのキャバレーでの仕事が入ったぞ」と話したら、1人から「最終ステージは何時だ?」と聞かれた。「午前0時ぐらいだ」と答えたら、日吉(横浜市港北区)に住んでいるやつが「俺、帰れないよ」と。彼はリードサックスなんです。で、「じゃあ、断ろうよ」となったのですが、「もう契約しちゃった」と私。

「そういう店って契約破棄すると怖いんじゃない」「どうしようか」

結局、最終ステージはサックスはなしにして、それまでドラムだった私がリードギターに、そしてバンドボーイ(楽器係)をしていた後輩が、私の代わりに演奏したことのないドラムをやることにしました。後輩は急遽(きゅうきょ)、ドラムの猛特訓です。

後輩の慣れないドラムでは速い曲は無理なので、最終ステージはハワイアンを演奏しました。そして最後はお客さんを送り出すのに「軍艦マーチ」を演奏するんです。

きっとひどい演奏だったんだと思いますよ。何とか最終ステージを終えたら、ステージを見に来ていたキャバレーの経営者が店長を呼び、「あのドラムをやめさせろ」って。それまでのステージとクオリティーが全然違うわけですからね。

さらに「ハワイアンとかインストゥルメンタルばかりだから、歌のある曲も演奏してくれ」と注文がつきました。

ステージで歌ったことはないけれど、自分が入れた仕事です。そこで私が歌うことにしました。歌は五木ひろしさんの「よこはま・たそがれ」(山口洋子作詞、平尾昌晃作曲)です。

《歌のリハーサルは…》

リハーサルは開店前、ホステスさんたちが座席でお化粧をしているところでやりました。私が歌い始めたら、みんなの化粧の手が止まりましたよ。下手すぎて。でも、ホステスさんはほめてくれるんです。勇気づけてくれたんですね。

そのキャバレーには「ゴーゴータイム」というのがあって、ホステスさんたちがテーブルの上で踊りながらどんどん脱いで、トップレスになっていく。ゴーゴータイムではロックンロールとかビートルズの曲を演奏するんですが、みんなは譜面を見ながらの演奏です。でもドラムはリズムを刻めばいいので、私だけがゴーゴータイムをずっと見ることができました。

そこのホステスさんはみんなきれいなんです。見とれちゃうぐらい。だけど開店前に会うと誰だか分からないんですよ。見事なほどの変貌ぶりでした。メンバーの中には車で来ているやつがいて、ホステスさんから「たばこ銭あげるから、うちまで送ってよ」って言われましたが、すべて断りました。

こうしたハードなキャバレーでの仕事を終え、メンバーの車で帰るとき、ラジオから流れてきたのが南沙織さんの「17才」(有馬三恵子作詞、筒美京平作曲)。あのすがすがしい青春の歌に比べ、酷暑の赤羽のキャバレーで激しいバイトをしている俺たちは何なんだ、と涙が流れましたよ。(聞き手 慶田久幸)

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