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ウクライナ避難民を無料カット 海外ショー出演でさまざまな髪質知る美容師の大沼孝三さん

産経ニュース / 2024年10月3日 21時28分

言葉でのコミュニケーションだけでなく、絵に書いて髪型を決めてからカットを行う=9日、足立区(梶原龍撮影)

ロシアによるウクライナ侵略から約2年半。今も多くの人が避難を強いられる中、東京都足立区で50年以上続く「美容室 KOZO」の美容師、大沼孝三さん(79)は、これまで延べ90人ほどの避難民の髪を無料でカットしてきた。「髪は大事なのできれいになってもらいたい」と、寄り添い続ける。

この日、店を訪れたのは、ロシアに占領されたウクライナ南東部、マリウポリから避難してきたオレーナさん(53)。息子夫婦が暮らす日本に2年半前に避難してきたという。最初の客としてこれまでに数回、カットしてもらっている。

カット前、大沼さんは顔と頭の形が書かれた紙に出来上がりのイメージを書く。言葉が通じない相手にもなるべく分かりやすくと、簡単な単語や手ぶりで希望を聞き取りながら、前髪や髪の長さなど鉛筆で絵を描いてからカットに移る。

会社員を辞めて

大沼さんは技を競うヘアショーに国内外問わずたびたび参加し、さまざまな髪質を扱ってきた。経験豊富な大沼さんによると、「金髪は黒髪よりも目立ちにくい分、丁寧に見る必要がある」と話す。

大沼さんは、美容師になる前は大手機械メーカーに勤務。会社員として働く生活が合わず、周囲の反対もある中で退職。かねてから興味があったという美容師の資格を得るため、朝4時から築地市場でのアルバイトをし、夜に学校に行く生活を送った。

美容師になり、銀座にある店で6年ほど修業を積んだ。給料は会社員時代の10分の1程度だったが、「美容師になってからのほうが楽しかった」と振り返る。その後、足立区竹の塚に自分の店を開き、ヘアショーに出るようになるなど腕を磨き上げた。

「ショーは数千人の前に立つので、感動させるような切り方や見せ方が大事」だという。毎年のようにドイツやギリシャといった欧州各国を回り、世界で評価され、名をはせた。

きっかけは客の話

ウクライナ避難民のカットを始めたのは、客の話がきっかけ。客から所有するマンションに入居した避難民に洋服を寄付した話を聞き、「自分にも何かできないか」と無料カットを開始。物置きなどにしていた旧店舗の壁を塗りなおすなどして改装し、予約が入ったときのみ店を開け、一人一人丁寧に、1時間ほどをかけてカットしている。

避難民が残したアンケートには「店の雰囲気が良かった」「ありがとう」などと感謝の言葉が多く寄せられている。

「喜んでいる姿を見るのがうれしい。美容師の仕事はお金じゃない」と、これからも支援を続けていくという。

ウクライナや中東など世界では戦争や争いが続いている。大沼さんは「日本もひとごとではないし関心を持たないといけない」と訴える。

夏の暑さが残る9月だったこともあり、大沼さんが首元に涼しさを感じるよう短く仕上げると、オレーナさんは「今回もきれいにしてくれた。孝三さんはいつも私がしてほしいことが分かっているので信頼しています」と笑顔を見せた。

オレーナさんは義理の母をマリウポリに残していて、「最後のお別れが言えないかもしれない」という。「戦争が早く終わって平和な暮らしに戻りたい」と続け、美容室を後にした。(梶原龍)

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