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五輪の「裏面」も掘り下げを 新聞に喝! 同志社大教授・佐伯順子

産経ニュース / 2024年8月4日 10時0分

トライアスロン女子個人決勝で一斉にスタートし、セーヌ川を泳ぐ選手ら=7月31日、アレクサンドル3世橋(川口良介撮影)

先月開幕したパリ五輪のニュースが連日、メディアをにぎわしている。選手を乗せた船をセーヌ川に浮かべる演出は五輪初と注目されたが、関西人にとっては既視感があったのではないか。大川(淀川)に船が浮かぶ天神祭や、歌舞伎役者が船で芝居小屋に乗り付ける船乗り込みはおなじみの光景だ。

ただ、本稿で考えたいのはこうした表の華やかさではなく、パリの街の実態である。

海外メディアによれば、パリ市民の間では、訪問客の増加による都市環境の悪化、生活困窮者の排除などへの批判があり、開催中にはパリを離れるパリっ子も少なくないという(「パリ市民のオリンピック精神は衰えず―しかし不満は残る」<7月29日、英BBC放送電子版>、「『パリ五輪は地獄…来るな』パリの市民はなぜ怒っているのか」<6月18日、韓国ハンギョレ新聞電子版>)。

公共交通機関の混雑や市民生活の制限など、観光公害の解消が喫緊の課題である日本の現状に照らしてもひとごとではないが、こうしたいわば「裏面」についての掘り下げが日本のメディアでは乏しいようにみえる。インターネット上の記事へのコメントには五輪に懐疑的な日本人の意見もあるが、新聞、テレビなどではあまり報じられない。

既に6年前、五輪の候補地に手を挙げる都市の半減を指摘、既得権益と地元住民の生活や経済のせめぎあいの末の判断との海外メディアの問題提起もあった(「なぜオリンピック招致から撤退する都市が相次いでいるのか」<2018年11月20日、英BBC放送日本語電子版>)。

前回の東京大会は、批判もありつつ無事終了し、米ロサンゼルス、豪ブリスベンと、次回以降の開催地も決まっている。とはいえ、歴史的にみて開催地が、いわゆる経済先進国の大都市を中心に回っていることも否めない。

世界各地のよりすぐりの選手が、さまざまな種目で競う五輪は種目別に開かれる世界大会とは異なる。平和祈念と国際交流の思いも込めた独自のスポーツの祭典であり、アスリートの多くにとっても特別な意味を持つ。ゆえに、決してその意義に水をさすつもりはなく、昭和の東京五輪を知る筆者も、選手たちの活躍に感銘を受け、心から応援している。

ただし、世界は単線的に進歩するわけではない。国際情勢の緊迫、富裕層と一般市民の経済格差、都市の治安などは、過去の五輪開催期に比べてむしろ深刻化しているのではないか。五輪後は、こうした国際的社会課題にも光を当てて議論してほしい。

佐伯順子

さえき・じゅんこ 昭和36年、東京都生まれ。東京大大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。専門は比較文化。著書に「『色』と『愛』の比較文化史」など。

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