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おびえていた中国人通訳が豹変 機内で交渉、月給4000円から25万円へ 話の肖像画 夢グループ創業者・石田重廣<20>

産経ニュース / 2024年11月21日 10時0分

夢グループのステージでは自ら運転して移動することも

《中国・天津の貿易会社からの輸入事業を支えたのが通訳の蘇建民氏。天安門事件後で当局の監視が厳しい中、蘇氏の悲願である来日に向けて尽力することになった》

蘇建民は優秀な男性で、就労ビザの申請などもろもろの書類を自分で準備するわけです。で、僕はそれらの書類を日中両国の関係先に申請する。作業についての打ち合わせは、当局の目に届かぬよう、男子トイレで並んでやりました。長い話は公園のベンチです。偶然を装って夜、時間差で同じベンチに座る。両端に離れてね。天津の夜の公園はカップルでいっぱいなんですよ。当局の監視はないだろうって。

就労ビザを取得して各種の申請も終了、後は飛行機のチケットを購入するだけとなった夜のこと。いつものように公園のベンチで待ち合わせた。「蘇建民、よかったね。飛行機のチケットは空港で買うからね」と話していたときです。警察官らしき制服の一団が公園に現れた。ザッ、ザッ、ザッと近づいてくる。蘇建民はもう真っ青です。

蘇建民は「もうおしまいだ。うちの子供と妻をよろしくお願いします」と涙を流している。蘇建民が「これまでがうまくいき過ぎたんだ。おしまいだ」と頭を抱えていたところ、一団は目の前を通り過ぎていった。蘇建民は呆然(ぼうぜん)としていましたね。それぐらい当局におびえていたんでしょう。

《無事、日本へ。奮発してビジネスクラスに乗り、飛行機内で祝杯をあげることにした》

巡航飛行になり、祝杯のグラスが運ばれたときです。蘇建民が「石田さん、乾杯の前に聞いておかなくてはいけないことがあるんです。僕の給料はどうなっていますか?」と言う。金額は忘れましたが、就労ビザの申請は確か30万円でした。そこで「いい部屋を借りたから安心して。家賃15万円は会社で持つから。月給は15万円から始めよう。昇給もあるから。中国に帰るときは出張手当も出すよ」と答えたんです。

で、何が始まったか。蘇建民がいきなりバーンとテーブルをたたいたんです。「バカにしないでください! 30万円で申請したじゃないですかっ!」と怒声です。あっけにとられました。「家賃は?」「家賃は働くんだから会社の負担ですよ。30万円ください」「全部で45万円、経理が許すわけないよ」「あなたの会社のために働くんです。先行投資をするのは当たり前です」。まったくらちが明かない。ちなみに蘇建民の中国での月給は4000円だったんですけど…。

祝杯どころじゃなくなりました。「もう帰ってほしいな」と思っていたら、蘇建民が「仕方ありません。25万円で妥協しましょう」って。もう分かったよ、となりました。

《来日後、蘇氏が仏像の輸入販売を始めた》

それでも蘇建民は優秀です。来日して半年ほどたったころでしょうか。「社長、仏像の輸入販売をやりましょう。もうかりますよ」と提案してきた。文化財ではなく、家のお仏壇に置く仏像です。仏像は素材によって値段が違うんです。一番安い檜(ひのき)から柘植(つげ)、紫檀、白檀(びゃくだん)と値段が上がっていく。3寸(約9センチ)くらいの仏像で、檜は一体1万5000円くらいなのに、柘植は40万円、白檀は150万円もする。ここに蘇建民は目をつけたわけです。

蘇建民はミャンマーから白檀を安く仕入れて、中国で腕のいい彫刻師たちに作らせて日本で売ったらどうか、と言う。いいアイデアです。で、「蘇建民、白檀と柘植でサンプルを作ってもらって。セールスに行ってみよう」となった。しばらくすると観音様や菩薩様ら大小約50体が中国から届きました。確かにすばらしい出来栄えです。

サンプルを持って、蘇建民と東京・浅草のお仏壇屋さんに営業をかけました。ご主人は「ほお、いいお顔をされている」と手応え十分です。次は値段交渉ですが、ここで僕は蘇建民という男のすごさを目の当たりにすることになりました。

(聞き手 大野正利)

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