「家庭料理は民藝だ」土井善晴さん 「用の美」極めた器はありふれたおかずによく似合う 民藝百年(上)
産経ニュース / 2025年1月5日 7時10分
無名の職人たちが手仕事で作り上げてきた生活の道具、民藝。「民衆的工芸」を指すこの言葉が生まれてから、今年で100年となる。それよりずっと以前から日本人の生活を支えてきた手仕事の器は、料理研究家、土井善晴さん(67)の暮らしにも欠かせないという。
手仕事のぬくもりをたたえて
「今日は帰り道で間引き大根を買ってきました。ジャコと炒りつけて食べようかと思ってるんです」
ある日の夕方、土井さんを訪ねると、晩ご飯のおかずを出してきた。
昼に余した鰯(いわし)を生姜(しょうが)と煮た「鰯の生姜煮」に、刻んだ大根の葉とチリメンジャコを油で炒めた「大根葉とジャコの炒めもの」の2品。
「民藝も匿名が基本ですが、和食のおかずにも名前はない。あえて、素材と調理法であらわしただけで」とつぶやきながら、器を見繕った。
食器棚に並ぶのは、手仕事のぬくもりのある器の数々。「どれもこれも、普段使っている」という。
石川の山中漆器、大分の小鹿田(おんた)焼といった名の知れたものもあれば、宮城の陣ケ森焼のように知る人ぞ知る窯を訪ねて求めたものも。なかには「陶芸家が自宅で使っていた器が気に入り、無理を言って1つだけ譲り受けた」というものまである。いずれも、民藝。黙々と土に向き合う職人の手による、美しさや出来栄えを競わない素直な仕事。使いやすい「用の美」を極めた実用品だ。
名の通った窯で焼かれたから、人気作家の作だから、と選んだわけではない。日々の暮らしの中で気負わず自由に使われている民藝の器は、「あたりまえのおかず」にあつらえたようによく似合っていた。
暮らしの中にある美しさ
「私ね、家庭料理は民藝やって、わかったんです」と、土井さんは語り始めた。若い頃は、有名料亭で修業し、美しさを求めて料理することが仕事だった。飾り気がなく素朴な民藝とは「正反対の世界だった」(土井さん)。プロの料理人の仕事と比べて、家庭料理を下に見るような心持ちになったこともあった。
ところが、30歳にさしかかる頃、民藝運動の先駆者でもある陶芸家、河井寛次郎の記念館(京都市)を訪ね、家庭料理に対する見方が覆された。「家庭料理に情熱をかけるものはないと思っていたら、人間の暮らしにはこんなにも美しいもの、民藝があった。人が一生懸命生活するところに、美しいものが生まれる。自分にとっての大発見でした」
土井さんが提唱する「一汁一菜を基本とする家庭料理」を盛るのは、形に手仕事ならではの揺らぎのある白地の飯碗と、艶を消した漆塗りの汁椀。それと、派手な主張などない土色の皿…。いずれも長年使い込まれており、どんな料理にでも自在に合う「用の美」をたたえていた。
「なんてことない器なんですけど、素朴というか健康的で自然なものです。必要以上に用途を絞っていないので、役に立つ。何の権威もないけれど、よく働く器です。こういった器で一日一度、料理を一汁一菜に整えると、食べる姿が変わるでしょ」
競争も美醜の区別もなく
季節や自然と人間の交点にあるのが料理。作って食べる営みに、器や調理用具は欠かせない。そうした道具は、日々人に愛用され、一層の美しさが宿っていく-。民藝という言葉の根底には、こういった思想が流れている。
「民藝と家庭料理には共通点があるというか、同じものだと思っています。民藝は無署名で自己主張がない、競争がない、美醜の区別がない。それは家庭料理も同じ。素材をただ食べられるようにすればよくて、名前はないし、おいしいとまずいの区別もないんです」。家庭料理も民藝だ。
民藝
みんげい 「民衆的工芸」を指す造語で、大正14(1925)年、思想家の柳宗悦が、陶芸家の濱田庄司、河井寛次郎とともに名付けた。職人の手仕事が生む暮らしに必要な道具には、自由で健康な美しさがあるとして、その価値を広く紹介するために考案された。無名の職人が代々、各地で自然の恵みを用いながら作ってきたもので、実用性があり、たくさん作られ安価に手に入る陶器や木工など。
土井善晴
どい・よしはる 昭和32年大阪府生まれ。スイス、フランスでフランス料理を、大阪で日本料理を修行。平成28年に著した『一汁一菜でよいという提案』がベストセラーに。1月17日から、日本民藝協会の講座「料理から民藝を考える」(全6回)の講師を務める。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
自然>人の都合 小鹿田焼のものづくり、民藝であり続けるため探るマイナーチェンジ 民藝百年(中)
産経ニュース / 2025年1月6日 7時10分
-
「うどを酢味噌和えにして食べようと思って…」コロナ禍で自炊にハマった岡村靖幸が土井善晴に怒られた理由
CREA WEB / 2024年12月27日 11時0分
-
100年の歴史と、現代のつくり手や目利きたちから学ぶ、民藝の魅力を特集した『たのしい民藝』Pen2月号は好評発売中!
PR TIMES / 2024年12月27日 10時45分
-
料理研究家・土井善晴『忍たま』土井先生に間違えられる 毎回トレンド入りでSNSフォロワー少し増加「光栄です。尊敬」
ORICON NEWS / 2024年12月26日 20時5分
-
手仕事の技術と先進工学の融合!新感覚!波佐見焼の酒専用フィルター「蒼い雫」
PR TIMES / 2024年12月13日 13時15分
ランキング
-
1先日近所に「ドラッグストア」ができたのですが、売り場の半分以上が「食料品コーナー」です。お得な商品も多くて嬉しいのですが、なぜ「薬局」の食料品は安いのでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2025年1月5日 5時0分
-
2【要注意】閉め切った室内で「防水スプレー」使用→呼吸困難に 事故を防ぐために必要な“対策”とは?
オトナンサー / 2025年1月6日 22時10分
-
3トヨタ「“新”ルーミー」発売! 値上げしても174万円!? “軽自動車並み”に安い「小型ワゴン」改良で何が変わった? ユーザーの反響は?
くるまのニュース / 2025年1月6日 8時15分
-
4「ベランダで鳩に餌付けをする」50代女性の隣人が見せた、常識破りの迷惑行為「やけに鳩の鳴き声がうるさいと思ったら…」
日刊SPA! / 2025年1月6日 15時53分
-
5「免許証見せるのイヤです」中国出身の女が免許証の提示を拒否!? なぜ? 一時停止違反の取り締まりが”まさかのトラブル”に発展…一体何があったのか
くるまのニュース / 2025年1月6日 9時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください