Z世代と始めた「循環」するものづくり COACHが描くラグジュアリーのこれから 伝統と革新
産経ニュース / 2024年7月11日 8時0分
1941年に米ニューヨークで生まれた革製品工房を原点とするブランド「COACH(コーチ)」。野球グラブ並みの強度を持つグラブタン・レザーなどを生み出してきた革新的なモノづくりや、「C」をアイコン(象徴)とするデザインで世界的な知名度を誇る。
80年以上かけて伝統を築いたコーチから昨年、新ブランドが誕生した。「循環」をキーワードに、若いZ世代に向けた「Coachtopia(コーチトピア)」だ。
「将来の地球を担う若い世代にとって、サステナビリティー(持続可能性)はファッションを選択・購入する理由の一つです。生産、消費、廃棄という直線的なモノづくりを循環型に変革し、若いZ世代とともに新たな世界をつくる共創プロジェクトです」
コーチ ジャパン/アジアのプレジデント兼最高経営責任者(CEO)、エマヌエル・リュエランさんはこう語る。
国内8店舗とオンラインで販売するコーチトピアの代表的なバッグコレクション「ループ」はリサイクルポリエステル素材のキルティング生地を使い、軽やかな雰囲気が印象的だ。
商品には、スマートフォンをかざすと素材の産地や由来を追跡できる「デジタルパスポート」がついている。A4サイズのトートバッグはリサイクル素材を使わない製品と比べ、生産時の二酸化炭素(CO2)排出量を30%削減、廃棄物653グラムの発生を回避したと表示される。
若い世代と手を携えて
「使い終えた商品を回収し、また新たなバッグなどに作り替える前提でデザインしています。素材が何回も循環する仕組みを構築するため、トレーサビリティー(追跡性)や透明性が重要なのです」
この取り組みをともに進めるのがZ世代のデザイナーや環境活動家らだ。コーチトピアの価値観に共鳴する多様な約200人がコミュニティー(共同体)を形成し、ウェブ上の情報発信などに協力し、ときには製品デザインにも参画する。
「日本からはサステナブルな活動に携わる約60人が参加しており、政府機関などに若者の声を伝える環境団体にはコーチトピアの基金で活動をサポートさせていただいています」
これら革新的なアイデアで新規顧客を拡大しつつ、従来のコーチの顧客層からも支持を獲得している。
「一般的にリサイクル製品はデザイン性が低いというイメージがあるかもしれませんが、コーチから生まれたブランドだからこそ、職人技や品質への信頼があります。より幅広い層にコーチトピアを楽しんでほしいと思います」
リアルに生きる勇気
しかし、Z世代やコミュニティーといったキーワードは、ステイタスシンボルとして訴求してきた従来のブランドイメージと、やや趣が異なる。コーチがあえて挑戦する背景には、創業者から受け継いだ精神がある。
「創業者のリリアン・カーンとマイルズ・カーン夫妻は、職人6人でブランドを一から立ち上げました。その勇気を持った行動力が、企業のDNAとして根付いています。だから、企業理念は『Courage to be Real(リアルに生きる勇気)』。自らの個性を受け入れ、誇りを持ち、自分らしさを表現できることが、良い生き方や社会への貢献につながるという考えです」
多様性を楽しんで
さらに、コーチトピアのコミュニティーにも引き継がれるのが、ブランド生誕の地・ニューヨークに根差す多様性だ。
「コーチをはじめ、ケイト・スペード、スチュアート・ワイツマンのブランドを擁するタペストリー社は『多様性が輝きを生む』との理念を掲げます。さまざまな意見や、国籍、性別などの背景、文化が融合することで、豊かな成果が生まれるという考えです。そこが私自身にもフィットしていると実感しています」
フランス出身のリュエランさんは約20年前に化粧品会社のプロダクトマネジャーとして日本に赴任して以来、シンガポール、香港などアジアでキャリアを築いた。
「子供のころ、漫画やアニメなどの文化に触れて、欧州との違いに興味をひかれました。だから、大学院修了後に日本での仕事のオファーを受け、この機会を活用して探検してみようと思いました」
来日当初は社会習慣の違いに戸惑うこともあったが、いまでは全国約180店の9割以上を訪れ、プライベートでは新幹線での旅行が楽しみという。
「日本は春の桜など自然から感じる季節をとても大事にします。地球のリズムとエコシステム(生態系)のなかで生きることは素晴らしいと思います」
Emmanuel Ruelland
フランスのENSAM “Grande Ecole” (パリ)およびSorbonne (パリ)を修了後、仏化粧品ブランドなどを経て、2016年に米コーチ(現タペストリー)に入社。20年からコーチ ジャパン/アジア プレジデント兼最高経営責任者。
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