岸信介、美空ひばり、力道山…華麗なる交友関係 大関のころから飲んだ大鵬と縁を切る 話の肖像画 元プロ野球選手・張本勲＜29＞

プロ野球OBクラブであいさつ　＝令和元年12月

《華麗なる交流が人生を支えてきた…》

私の人生を支えてくれたのは交友関係です。政界、経済界、芸能界などいろんな分野で一時代を築いた多くの人たちとの交友がありました。例えば政界なら岸信介先生、元総理で安倍晋三さんのおじいちゃんですね。お宅（静岡・御殿場にある私邸）は近くにゴルフ場もあって、まだ私が20代の若いころから何度も訪ねました。岸先生は日韓国交正常化（昭和40年）に尽力された方です。日韓関係を本当に心配されていた。岸先生と韓国外交関係者との懇親会の席には、何度か末席にお邪魔させてもらいましたが、肌で感じましたね。その後、田中角栄先生にも何度かお会いしてます。

財界では当時のロッテグループの創業者である重光武雄会長や野村証券の瀬川美能留さん（元社長、会長）、三菱重工の河野文彦会長（巨人後援会「無名会」会長）らがいました。政財界の人たちとの交流は話に聞き入るばかりでしたが、私の後の人生に大きな影響を与えていただいたと感謝しています。

プロ野球の東映に入団した関係で芸能界での交友は多かった。片岡千恵蔵さん（映画「七つの顔の男だぜ」の多羅尾伴内役など）、北大路欣也さんのお父さんである市川右太衛門さん（代表作は映画「旗本退屈男」など）、中村錦之助（後に萬屋錦之介）さんとか。高倉健さんとも付き合いがあったが、近かったのは鶴田浩二さんです。東京の上野毛に家があって、よくそこで一緒にマージャンをやってね。非常に態度が悪い、行儀がね。ツキがないときは牌を足でかき回すんです。「何やってるんですか」って（笑）。

歌手では美空ひばりさん、春日八郎さん、三橋美智也さんにも親しくさせてもらった。三橋さんは私が持っていた原宿のマンションに7年くらい住んでいましたからね。藤山一郎さんは慶応ボーイでジェントルマン、何をやるにしてもね。よく一緒にゴルフをしました。相撲界では大鵬ですかね。大関のころから一緒に飲みました。一時、若い衆を連れて飲み歩いて家庭を顧みないことがあってね。それで大鵬とは縁を切ったんだよ。

《戦後、日本中を熱狂させたプロレスラーの力道山が今年11月14日で生誕100周年を迎えた。先月9日、都内で祝賀会が行われた》

生きてれば100歳か。アントニオ猪木は亡くなった（令和4年10月1日、享年79）、関係者で当時をよく知っているのは私くらいしかいなくなったね。

力さんには本当によくしていただいた。昭和38年12月8日、赤坂のナイトクラブで暴力団員の男に刺され、1週間後の15日に亡くなった。私が23歳のとき、16歳違うから力さんは39歳です。夜中に電話があって、赤坂の山王病院に行ってね。死に目には会えなかったけど、もう涙が止まらなかったですよ。

力さんはね、ものすごく面倒見がいい方ですが、その半面、もう気が短くて、手が付けられない人でしたね。星野（仙一さん、元中日監督など）が気が短いっていうけど、あんなもんじゃないよ。何でそんなに腹が立つのかねぇって思うくらいにね。飲んでいてナイトクラブの中を全部ぶち壊しちゃう。誰が止めるのって、そんなの。あの体でしょ。ある日、一杯飲みながらクラブのオーナーに「何か文句あるなら言ってこい！」って怒鳴る。するとオーナーは言うんですよ。「これで（店を壊すのは）2回目ですので請求しますから」ってね。そういうことですわ。豪快な人でしたよ。

《100周年祝賀会に王貞治さんも出席し、「力道山さんは戦後、日本が元気がなかった頃に外国人レスラーをなぎ倒してくれた。当時の日本にとっては痛快だった。いま大谷翔平のことが大きく扱われていますが、当時はいまの大谷を超えるすごい出来事」とスピーチしたという。熱狂度が伝わってくる》（聞き手　清水満）