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留学をかなえてくれた亡き友の母 話の肖像画 モラロジー道徳教育財団顧問・金美齢<10>

産経ニュース / 2024年8月10日 15時11分

留学先の早稲田大学にて=昭和37(1962)年ごろ

《台北国際学舎(通称・アイハウス)の館長秘書だった1958年夏、日本留学を支えてくれるはずだった台湾への留学生、安田延之さんが国共両軍の砲撃戦の取材で訪れた金門島で亡くなった。親友の死と日本留学が絶たれたとの思いで、呆然(ぼうぜん)自失の日を過ごしていた》

私の日本への留学をサポートすると申し出てくれた安田さんは、育ちのよさが全身からあふれ出ている、善意の塊みたいな人で、彼の死には悲しみしかなかった。私の日本留学について安田さんは、両親が経営する会社に雇用するという形で日本に来ればいい、と言ってくれた。ご家族の気持ちを考えると、私の日本留学はもうないだろうと思っていた。

しばらくたって、安田さんのお母さまが手続きや世話になった方々へのあいさつで台湾を訪ねられた。アイハウスに寄ったお母さまは、私に「息子がお世話になりました」とあいさつ。そして「息子が約束したことを私たちが代わりにやります」とおっしゃった。愛息が亡くなった悲しみで大変ななか、約束まで守ろうとするとは。大弾圧「二・二八事件」やそれに続く一党独裁の恐怖におののく日々を過ごしていただけに、安田さんのお母さまの義理堅さ、律義さは心に染みました。

《昭和34(1959)年春、試験に合格して早稲田大学第一文学部英文科に入学した。日本での生活が始まった》

まず大学の教務部にあいさつに行った。そしたら、いきなり言われたのが「全然名前と合わないね」。名前に「美」とあるけど、そのとき私はボサボサ髪のすっぴんで行ったから。失礼極まるよね。それが大学の第一印象だったんだけど、その後のキャンパスライフは素晴らしかった。

コール・グローブさんという米国人の非常勤講師がいた。授業ではいつもボソボソ話しているので、誰も聞いていない。英語だし、一番眠くなる午後2時だったから。ある日、グローブさんが授業の最後に「Any questions?」と聞いてきた。誰も答えないので、私は手を挙げて「英語のソフィスティケイト(sophisticate 洗練さ)の意味を教えてください」と質問してみた。

するとグローブさんは「説明するのはすごく難しいから、こういう言い方をしましょう」とし、「越路吹雪さんの魅力はソフィスティケイト、坂本九さんの魅力は純粋さ」と教えてくれたのよ。辞書ではイメージできなかったソフィスティケイトという言葉の本質をその瞬間、理解できた。この人はすごい博学で、言葉をちゃんと知っているなと思った。それからすごく仲の良い友人になった。

《困らせたこともあった》

グローブさんは歩く辞書みたいな人で、何でも教えてくれた。演劇史ではエディプス王から始まって現代劇まで、打てば響くように何を聞いても教えてくれる。系統だって本を読むことになったのはグローブさんのおかげ。私は英文科の主任に直訴した。ゼミにグローブさんを呼んでくれ、と。

それでグローブさんが言うわけよ。メイリン(美齢)は単位を取ったのにまた来ているって。だから毎年、テーマを変えざるを得ない、とうれしそうに困った顔で。彼の授業で退屈したことはない。早大には大学院、英語の講師を含め、10年間通った。

通訳のアルバイトもやった。当時はまだ中華民国と日本は国交があって、大使館のイベントで呼ばれることも。台湾語、中国語、英語、日本語での会話は不自由なかったので重宝された。その通訳のアルバイトが、日本での人脈を広げてくれた。(聞き手 大野正利)

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