目立つ「年賀状じまい」 還暦を機に…はがき値上げも拍車かけ 100歳時代の歩き方
産経ニュース / 2024年12月1日 9時0分
年賀状は今年限り-。シニア層を中心に年賀状を送ることをやめる「年賀状じまい」をする人が目立つ。人生の最期に備える「終活」の定着や交流サイト(SNS)の広がりなどが要因とされ、今年10月の郵便料金値上げも、拍車をかけるとみられる。新年をことほぐ伝統文化の一つが岐路に立たされている。
60歳の節目を前に整理
«年賀状については、今後は失礼させていただきたいと思います»。東京都江戸川区の会社員、利岡敬之さん(62)が〝最後〟の年賀状を出したのは58歳のときだった。毎年知人や仕事の関係先などに宛てて、2日がかりで130枚近くを書いていたが、「60歳の節目を前に、いろいろ整理しよう」と、年賀状じまいを決意した。
やめた後も、人間関係に支障は出ていない。利岡さんは「儀礼的に出していた年賀状の負担がなくなって楽になった」と話す。ただ、完全に年賀状を送るのをやめたわけではないという。今でも、親しい友人らには近況報告も兼ねて20枚ほどは出している。「(年賀状じまいを)厳格に捉えない方がいい」と話す。
茨城県常陸太田市に住む主婦、岡田広子さん(73)のもとには6年前の元日に、夫の友人から年賀状の「卒業」を宣言するはがきが届いた。「それならわが家も」と追随。翌年から毎年100枚ほど出していた年賀状を10枚に抑えるようになった。「面倒だと思いながらも、相手から毎年届くから出していただけだった」と振り返る。
再開してもいい
創業150年以上になる東京・上野の老舗文房具店「岡本紙文具店」では今年11月、年賀状じまいの「はんこ」の販売を始めた。«皆様への年賀状は本年を最後に…»などと記された、年賀状に押すはんこだ。多いときは1日5、6個も売れるといい、店主の岡本祐子さん(63)は「縦書きしかなかったが、お客さんの要望で横書きも作った」と話す。
年賀状じまいが増えた背景には、SNSの普及もあるとされる。新潟大の長尾雅信准教授(人文社会学)は「多忙で効率化を求める現代は、手間をかけて年賀状を出すことが負荷になっているのではないか」と推察。「形式的に年賀状を出し続けることがむしろ逆に迷惑なのではないかと相手をおもんぱかる人も増えている」と指摘する。
ただ、年賀状は人と人がつながりを改めて確認する機会という一面もある。長尾氏は「高齢者は交友関係が減りがちなので、年賀状が生活の張りになることもある。たとえ、年賀状を送るのをやめたとしても、また送りたくなったときには再開してもいいのではないか」と話している。
今回の発行枚数、前年より25%減少
年賀はがきの発行枚数は平成16年用の約44億6000万枚をピークに減少傾向が続いている。今年10月の郵便料金値上げで、はがきが1枚63円から85円になり、さらに需要は落ち込むとみられる。日本郵便によると、令和7年用の年賀はがきの販売は11月から始まったが、発行枚数(当初)は10億7000万枚で6年用よりも約25%減少。この減少幅は、平成16年用以降で最大だという。
文具メーカー「パイロット」が昨年11~12月に20~60代の働く人約400人を対象に実施したアンケート調査によると、「年賀状を出す」と回答した人の割合は前年より7.1ポイント減って43.8%となった。この調査は昭和50年代から実施しているが、初めて半数を割り込んだという。
年賀状を出さない理由(複数回答)は、最も多かったのが「LINEなどメッセージアプリで代用」で61%。次いで「準備が面倒」(45.7%)▽「SNSで代用」(32.7%)▽「出す習慣がない」(26.9%)-の順となり、「郵便代などコストがかかる」と回答した人も9.4%いた。
できれば年賀状を出したくない相手(複数回答)の最多は「会社などの上司」(44.3%)で前年より10.5ポイント増加。「今後年賀状の習慣が必要だ」と答えた人の割合は前年よりも0.6ポイント減ったが、55.2%と半数以上を維持した。(塚脇亮太)
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