「完全オープン」映える「床もみじ」は偶然の産物? 桐生市・宝徳寺 晩秋へ備え着々 味・旅・遊
産経ニュース / 2024年10月29日 8時0分
暑さも遠のき、秋本番。となると気になるのが晩秋の紅葉狩り。群馬県桐生市に、赤や黄色の紅葉が本堂の床板に映りこむ全国でも珍しい「床もみじ」の寺がある。〝映える画像〟としても知られた本堂を、11月の最盛期を前に訪ねた。
桐生市郊外、関東百名山の鳴神(なるかみ)山(980メートル)を仰ぐ山間(やまあい)に臨済宗「宝徳寺」は建つ。衆院選を迎えた喧騒(けんそう)の都市部を離れ、静けさの漂う境内奥の本堂に、鏡のような床があった。
再建をきっかけに
広さ28畳。小ぶりな柔道場ほどの広さだが、目の前の枯れ山水の庭園、その外に広がるモミジの木々が美しく映り込む。境内に100本以上あるが、まだ色は大半が緑。赤く染まるのは11月に入ってからだ。
その代わり本堂脇には赤や黄の和傘が積まれ、床に映える。ピカピカの床を毎朝、業者が念入りに磨くのは風に乗って舞い落ちる葉や花粉、ほこりなどをふき取るため。準備万端だが、金子太住職(57)によると、現在のような景観と盛況ぶりは「奇跡のような偶然の産物」という。
宝徳寺は15世紀中ごろ、領主・佐野正綱が山城の要害として創建した。その後、佐野氏滅亡とともに廃れたが、江戸期に地域の人々の力で再興された。
そんな寺の来歴の中で、床もみじの歴史は10年ほどしかない。きっかけは25年前の寺の再建。京都の大徳寺や建仁寺といった有名な古刹(こさつ)を参考に、本堂中央にいわば「聖域の中の聖域」として鏡面仕上げの床をつくった。周囲に植えたモミジなどの木々が成長し床に映えるまで、床もみじは想定していなかった。
「そこへSNS(交流サイト)の普及で『映(ば)える光景』として、知られるようになった」(金子住職)
偶然からの御利益
なぜ奇跡か。実は美しい床を配した寺は他にもあるが、映るのは庭園だけ、クスノキだけだったり、床もみじはあっても撮影厳禁だったり、床ではなくテーブルだったり。完全オープンの床もみじは「インターネットなどで探しても、なかった」。偶然から生まれた唯一の御利益。奇跡と呼んでいいのかもしれない。
それでも当初は床に映る紅葉の美しさを理解するのは日本人くらいかと思っていた。ところが、栃木県足利市が米国の姉妹都市から招いた高校生の男女20人が見学に訪れると、床もみじに歓喜したという。
今や11月の特別公開期間(有料、メモ参照)は1日3千人が訪れ、門前に長い列ができる。撮影は自由だが長蛇の人が待つ場合、配慮をお願いすることも。
本堂を出ると、境内には木々の間に愛らしい大小の地蔵を配した遊歩道が整備されている。隠れ地蔵を含め54体、癒やされますよ。
(風間正人)
臨済宗宝徳寺 北関東自動車道の太田桐生IC、伊勢崎ICからともに約30分。JR桐生駅からバスで20~40分(便により経路に変更あり)。秋の特別公開は19日から始まっており、料金は10月800円、11月1200円(高校生以下無料)。最盛期(11月9日~12月1日)には夜間ライトアップ(午後5~8時)も実施、拝観料は1200円(高校生以下無料)。
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