12歳の少女が見た昭和35年 「アンポ、ハンタイ!」本当に言っている人を初めて見た プレイバック「昭和100年」

腕に付けるのが流行したダッコちゃん人形

＜当時の出来事や世相を「12歳の子供」の目線で振り返ります。ぜひ、ご家族、ご友人、幼なじみの方と共有してください。＞

銀座のデパートでは祝賀の垂れ幕が並び、日の丸の小旗が飾られてお祭りのようだったらしい。皇居には大勢の人が記帳に訪れたそうだし、私が普段乗るバスにも日の丸が掲げられていた。2月23日にお生まれになった親王さまを、みんながお祝いしているのだ。

発表されたお名前は徳仁（なるひと）親王、皇族としてのご称号は浩宮さま。お母さんの美智子さまが抱っこされる写真が新聞に載ると、私の両親は「目元は皇太子さま、口元は美智子さまにそっくりだ」と話していた。

9月に皇太子ご夫妻がアメリカに出張された際、美智子さまはお世話係の人に「駄々をこねたら叱ってください」「1日1回は抱っこしてください」という趣旨の育児ノートを預けられていたという。さすがに民間のご出身らしく、普通の家庭のように育てたいのかなと思う。このノートは「ナルちゃん憲法」と呼ばれるようになったらしい。

親王さまは将来、天皇陛下になられる方だ。今の陛下のお年のイメージが強く、将来の陛下が私よりも年下で、今はかわいい赤ちゃんというのが不思議な気もするが、そのご成長をこれからも見守れる私の世代は幸せだと思う。

結婚や出産といえば、女性の間でお相手の条件になっている「家付き、カー付き、ババア抜き」という流行の言葉が私は大嫌いだ。お金持ち狙いみたいでいやだし、何より結婚相手の親を大切にしていない。最近では核家族という言葉があって長男でも親と一緒に住まない人もいるという。

私の家では、働きに出ているお母さんの代わりにおばあちゃんが家事はぜんぶやってくれている。私も弟もおばあちゃんに育てられたようなものだし、お年寄りのいない家なんて私には想像すらできない。

2年前にはお湯をかけただけで食べられる「チキンラーメン」が出て、今年は「インスタントコーヒー」も発売された。「インスタント」は流行語になったが、こういうものが増えていくと、家族の食卓も変わっていくのかなあと思う。

最近は女の子の間で「ダッコちゃん」というビニールの人形がはやっていて、抱っこではなく、腕に付けるのがはやりのようだ。私も誕生日にデパートで買ってもらったが、並ばなければ手に入らないほどだった。

その帰り道、すごく大勢のデモ隊が道路を埋めていた。男の子たちがよくふざけて言っている「アンポ、ハンタイ！」を本当に言っている人たちを初めて見た。お父さんは「見なくていい」と言っていたが、私は興味が出て調べてみた。

9年前の昭和26年に結ばれた日米安保条約を改定するようだが、アメリカが日本を守る代わりに、今度は日本にいる米軍が攻撃されたときは日本も一緒に戦うようになるそうだ。

私は「当たり前じゃないか」と思ったが、学校の先生に聞くと、「アメリカの戦争に日本が巻き込まれていいのか」と言われてよくわからなくなった。先生は岸信介総理が嫌いみたいで、「岸がぜんぶ悪い」とも言っていたので、ちょっと違うような気もした。

ただ、その後の6月には国会が何十万というデモ隊に囲まれて警官隊と衝突し、東大の女子学生が巻き込まれて死亡したニュースは、同じ女子としてもすごくショックだった。その上、あんなに大勢の人が押し合う中で亡くなるなんて本当に苦しかっただろうなと思った。

私も終戦から3年目の生まれだし、戦争はもう誰もしたくないと思う。ただ、戦争に反対する人たちが戦争のようなことをしているのだから、これからも戦争はなくならないのかな、と思った。