12歳の少年が見た昭和48年「僕たちに未来はない。ノストラダムスが予言したのだから」 プレイバック「昭和100年」

長嶋、王らを擁し黄金時代を築いた巨人軍。9年連続で日本一を達成した（先頭は川上哲治監督）＝昭和48年

＜当時の出来事や世相を「12歳の子供」の目線で振り返ります。ぜひ、ご家族、ご友人、幼なじみの方と共有してください。＞

こんな本読まなければよかった。僕はあと26年しか生きられない。1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってきて人類は滅亡するからだ。「ノストラダムスの大予言」という本に書いてあった。

「恐怖の大王」は核兵器とも、天変地異とも言われている。その時、僕は38歳。本当なら結婚して子供がいるくらいの年だけど、そこで人生終わってしまうのだ。21世紀なんてない。勉強したって仕方がない。だって人類は滅亡するのだから。

「日本沈没」も怖かった。こちらは小松左京さんの小説だが、1999年よりもっと近い197X年の話だ。京都や東京で大地震が起きて、最後は日本全体が沈没してしまう。今年は関東大震災から50年にあたるので「周期から見ても絶対に大地震が来る」と言う友達もいて本当に心配だ。小学生向けの雑誌でも「巨大隕石が落ちてくる」とか「富士山大噴火」とかがすごく怖いイラストと一緒に書いてある。でも見たくないのに見てしまうのはなぜだろう。

大人は怖くないのだろうか。お母さんは「バカバカしい」と笑っていたが、自分だって「トイレットペーパーがなくなる」と言ってパニックになっていたじゃないか。この年の10月に「第4次中東戦争」という戦争があり、「石油が日本に来なくなり、トイレットペーパーも作れなくなる」という噂が一気に広まったのだ。

結局、3カ月くらいで収まったけど、「1人1個まで」というから僕も遠くのスーパーまで行かされて、何回も並ばされた。ただ、ガソリンなどの燃料だけでなく、僕の好きな駄菓子の値段も上がったし、何より遠くの外国で実際に戦争が起きたことは確かだ。「第4次中東戦争」が「第三次世界大戦になる」なんていう記事も雑誌には出ていた。何だかみんなが不安をあおって、その不安を一緒に抱えることで楽しんでいるような気もした。

この年はよいニュースもあった。日本人4人目のノーベル賞に江崎玲於奈さんが選ばれたのだ。最初聞いたときは女の人かと思ってびっくりした。物理学賞は3人目で、もう1人は文学賞の川端康成さんなので、日本人は物理に強いのかなとも思う。「日本沈没」に出てくる地球物理学者の田所博士みたいで心強いと思ったが、江崎さんは電流とか電圧とかの研究の人で地震予知とは関係ないらしい。

プロ野球の読売巨人軍が日本シリーズでV9達成というニュースもあった。長嶋茂雄、王貞治選手という二大スターがいるからだが、巨人は僕が4歳のときからずっと優勝しているので、もう何だか当たり前のような気もする。

僕は「月刊明星」もよく買っていて、今話題の「花の中三トリオ」の記事を見るのが好きだ。桜田淳子さん、森昌子さん、山口百恵さん。僕は淳子ちゃんのファンで部屋にポスターも貼っている。「明星」は明るい話題が多くて安心して読めるが、淳子ちゃんや百恵ちゃんの顔を見ているときも時々、「恐怖の大王」のことを考えてしまう。

ノストラダムスはなぜそんな余計なことを言ったのだろう。もし地球が滅亡しなかったら、僕は絶対にノストラダムスを許さない。でも、そのときは僕も地球も無事ということなのだ。38歳の僕はどこで誰と、どんな気持ちでその日を迎えているのだろうか。

※原油の値上がりは石油製品の値上げにもつながり、オイルショック後の昭和49年度の国内卸売物価は前年度比20・1％、消費者物価指数は20・9％まで上昇。急激なインフレは「狂乱物価」とも呼ばれ、それまで旺盛だった経済活動にもブレーキをかけることになった。