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返還から半世紀、島民や観光客に愛され続ける世界自然遺産・小笠原の母島駐在文庫

産経ニュース / 2024年11月3日 19時9分

東京都心から南に約1000キロに位置する本州から最も遠い有人島の小笠原諸島、母島(東京都小笠原村)。先の大戦後は米軍の統治下となり昭和43年に返還され、島民が戻ってから半世紀にわたり愛されている場所がある。小笠原署母島駐在の小さな本棚「母島駐在文庫」だ。

紺碧(こんぺき)の海に囲まれた世界自然遺産の島、母島には約450人が暮らす。都心からは船を父島で乗り換えて計26時間。役場や商店3店舗が集まる島の中心部に位置する母島駐在所では、荻田卓警部補(40)と小沢俊介巡査部長(41)の2人が勤め、島の治安を守っている。

免許更新手続きや交通安全教室も行い、警察署の役割も担う。そして中にある駐在文庫には絵本や小学生向けの学習本、伝記など約370冊が置かれ、子供から大人までが利用している。荻田さんは「年に15冊借りる小学生や放課後に新しい本が増えていないか見に来る子供たちもいますよ」と笑みを浮かべる。

母島を含む小笠原諸島は43年6月、米国から日本に返還された。徐々に住民が戻り、48年に初代駐在所が開所。当時を知る住民によると、この頃から小さな本棚があったという。荻田さんは「本屋もテレビも電話も新聞もない中で、駐在所は憩いの場だった」と話す。

憩いの場であり「財産」

その後、駐在所は2度建て替えられたが、駐在文庫は引き継がれ、本の数も増やしていった。都警察官友の会からの寄贈されたもののほか、観光客からの寄贈もある。観光で島に来て連日訪れていた小学生の女児が、帰宅後に、感謝の手紙とともに送っていた本もあるという。

今夏には台風で、本州と父島をつなぐフェリー「おがさわら丸」が欠航となった影響で足止めになった観光客も「文庫」を利用した。小笠原署の吉武弘基署長は「貸し出しのときに身分を確認していなくてもこれまで未納の本がないのが母島らしさだと思う」と話す。

憩いの場ともなっている駐在所は、本のほかにも津波対策や避難場所などの資料を置くほか、特殊詐欺被害防止や交通事故防止などの情報発信の場としても活用されている。駐在文庫は今や母島の財産だ。

家族とともに母島に赴任して2年超となる荻田さんは少年柔道の指導にも精を出す。荻田さんは「何か起こる前に犯罪や事故の芽を摘む活動も大切。駐在文庫などでの交流を続け、地域の方々と協力して事件事故のない母島にしたい」と力を込めた。(大渡美咲)

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