限界迎える家族での葬送 増える「無縁遺体」、社会全体で再考を 「薄縁」時代㊦
産経ニュース / 2024年11月11日 12時0分
神社や寺が多く点在する名古屋市東区。葬儀社「セレモニー白壁」の入る建物の裏手には、遺体安置のための大型冷蔵庫が置かれていた。厚い扉を開くと、おびただしい数の棺が並べられていた。中に横たわるのは、引き取り手が見つかっていない故人たちの遺体だ。
同社の後藤雅夫社長(76)によると、遺体の多くは行政や福祉団体の依頼を受け、ここにやって来る。引き取り先がないか自治体が親族調査に当たる間、保管を担うことになるといい、「人によっては、数週間~数カ月かかることもある」という。
敷地内に置かれる冷蔵庫に収容できるのは13体まで。連日満室の状態が続くが、保管依頼は次々と舞い込む。「多い時には20体の安置が必要になったこともある」と後藤社長。入りきらない遺体は棺内にドライアイスを入れ、保管に努めている。
葬儀に親族は姿を見せないことが多い。同葬儀社のスタッフら以外、参列者が誰もいないこともあるが、僧侶を招き、故人を丁重に弔っていく。「生きている間はいろいろとあったのだろうが、最後は心を込め、送り出してあげたい」。後藤社長はつぶやいた。
引き取り手調査に年単位かかることも
身寄りがなかったり、親族がいても引き取りを拒否されたりするこうした「無縁遺体」は、墓地埋葬法などに基づき、死亡地の市区町村が火葬などを行うとされる。
自治体は警察や病院などから連絡を受けると、引き取り手を探すことになるが、その道のりは長く険しいものとなりがちだ。
親族は戸籍をたどって特定する必要があり、他の自治体から戸籍を取り寄せることもあるが、親族に文書で引き取りを打診するも返信がないことは少なくない。調査・打診は配偶者、子、親、兄弟姉妹、孫や甥・姪などに及ぶこともある。
だが、そこまで骨を折っても「疎遠であったことや過去のトラブルなどを理由に受け取りを拒まれるケースはある」(さいたま市の担当者)。千葉市では遺体の引き取りから2週間ほどで火葬となるが、その後も親族調査を行っていくといい、人によっては「年単位で作業が続くこともある」(同)という。
自治体に統一マニュアルなし
総務省の調査では、平成30年4月~令和3年10月、全国で発生した引き取り手のない死者数は10万5773件。このうち5万5424件は遺留金がなかった。火葬などにかかった費用は故人の遺留金を充当できるが、不足分は公費支出が必要となる。「毎年見積もりを上回るペースで負担が増えている」と明かす自治体もある。
遺体の引き取り先を探す親族調査の範囲、火葬までの期間、遺骨の保管期間などに統一的なマニュアルはない。現場裁量に対応が委ねられる中、混乱も起きている。
名古屋市では令和4年に、引き取り手のない19遺体が最長で3年半近くにわたり、火葬されぬまま葬儀会社に預けられていたことが判明。引き取り手のない遺体の葬儀執行件数(生活保護受給者らを除く)は年々増加傾向にあり、同年度は256件に達したという。
問題を受けて同市は、火葬を終えるまでの期間を「原則1カ月以内」と決めたが、親族の意思確認などは思うように進んでいかないのも実情だ。
「これまでの価値観で支えきれず」
厚生労働省は引き取り手のいない遺体・遺骨の自治体の取り扱いについて、年度内に現状や課題を整理し、参考事例を盛り込んだ報告書をまとめる方針だ。ただ、自治体からは、統一的な指針を望む声もあがる。
「すでに故人の葬送は『家族が担うもの』という価値観だけでは支えきれなくなっている」。淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は、こう指摘する。
核家族化と同時に、家族関係や地域のつながりの希薄化が進み、結婚をしない人や子供を持たない人らも増えている。結城教授は「身寄りのない高齢者は、今後さらに増えていくことになるだろう」と話し、続けた。
「葬送を『家族の問題』から『公共の問題』として捉え直し、支える態勢をどう構築していくかを社会全体で考えていく必要がある」(三宅陽子)=終わり
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