厳しい眼光に苦み走る表情、戦国武将・藤堂高虎の素顔か 重臣家に伝わる幻の肖像画発見
産経ニュース / 2025年1月3日 11時0分
徳川家康の幕藩体制づくりを支え、築城の名手としても知られる戦国武将、藤堂高虎(1556~1630年)の肖像画が見つかった。高虎の重臣・伊藤兵庫の子孫が伝えた文書類が、津市の石水(せきすい)博物館に昨年寄託され、そこに肖像画が含まれていた。高虎は存命中に描く「寿像」を3幅残したとされるが、いずれも未発見。1幅は伊藤兵庫に与えられたとされ、今回の肖像画がそれであれば、高虎の面貌を知る最高の資料となる。
苦み走った表情
高虎が3幅の寿像を残したことは、藤堂家の歴史をまとめた『宗国史』(1751年)の「遺像記」に記されている。
これによると、高虎は自ら絵師に命じて3幅を描かせ、家康の顧問として重用された僧・天海に讃文(仏教の法会などで詠唱する歌)を依頼し、藤堂藩2代藩主の高次のほか、重臣の井上十右衛門と伊藤兵庫に与えた。
寿像ではない高虎の肖像画はこれまでに10幅の存在が知られ、津市の四天王寺と三重県伊賀市の西蓮寺に伝わる2点が国重要文化財に指定されている。
三重大学の山口泰弘名誉教授の研究によると、「四天王寺本」は精確で肖似性が高く、切れ長の眼光鋭い目が特徴。「西蓮寺本」は対照的に肖似性を減衰させ理想化した画像だという。
10幅の面貌は、四天王寺本か西蓮寺本のどちらかと酷似し2系統に分類される。しかし今回の伊藤家本はそれらの系統と明らかに異なる。
伊藤家本は縦78・9センチ、横30・6センチの掛け軸に描かれ、天海の讃文が記されている。面貌には生気が漂い、厳しさと迫力を感じさせる眼光、苦み走った表情は印象的だ。これこそが、数々の武功を挙げ、豊臣秀吉の弟・秀長や家康から信頼を寄せられた武将の面構えなのか。
高虎の菩提寺に預ける
寿像を与えられた伊藤兵庫は、徳川家と豊臣方が争った大坂の陣で活躍し、高虎から藤堂の名字を与えられ、2千石の重臣となる。石水博物館に寄託された伊藤家文書の「伊藤家先祖以来由緒控」と遺像記によると、兵庫を初代とする伊藤家の4代目当主が江戸中期頃、寿像を高虎の菩提寺(ぼだいじ)の寒松(かんしょう)院(津市)に預けている。
伊藤家文書を調査する早稲田大大学院生で東京大史料編纂所学術専門職員の宇野鈴音さんによると、由緒控には寿像を預けた事情として、「年々家が衰微していくことを感じ、後世への不安もあった」と記されていた。
江戸後期には、伊藤家が高虎画像をどのような経緯で寺に預けたのか分からなくなってしまうことを懸念し、伊藤家当主が、高虎命日の参拝に息子を連れていきたいと寒松院に願い出ていることも読み取れるという。
宇野さんは「高虎画像は伊藤家にとって、『家』の由緒の正統性を示すものであった」と指摘する。
石水博物館で初公開
『三重県国宝調査書』(昭和13年)によると、高虎の居城であった津城跡に明治9年に創建された高虎を祭る高山(こうざん)神社に納置するためとして、同10年に高虎画像は伊藤家に返却されている。
伊藤家本は、果たして寿像か。宇野さんは「伊藤兵庫への寿像の下賜が事実であれば、伊藤家はその認識で崇拝し続けたのだろう。ただ寒松院に預けることで一時的に伊藤家の手を離れており、預け入れ前と返却後のものが同一であるかは、文献史料のみでは判別が難しい」と話す。
伊藤家本は1月19日まで、石水博物館の企画展「津藩校 有造館と齋藤拙堂」(年始は4日から開館)で初公開中だ。展示を担当する桐田貴史学芸員は「寿像であれば大変貴重な発見。美術史、文献史学の双方からの研究をまちたい」としている。
■藤堂高虎 近江国犬上郡藤堂村(現・滋賀県甲良町)の土豪出身。はじめは北近江の浅井長政に仕え、主君を7回変えた「渡り奉公人」として知られる。豊臣秀吉の弟、秀長に見いだされて豊臣大名となり、最後は徳川家康を主君に選び関ケ原の戦いや大坂の陣で武功を挙げる。津城と伊賀上野城を拠点に外様大名ながら家康に重用され、江戸時代の城郭スタイルを確立した築城家として名高い。(川西健士郎)
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