12歳の少年が見た昭和63年 陛下のご容態は一進一退のまま、除夜の鐘が鳴った プレイバック「昭和100年」
産経ニュース / 2024年12月30日 8時52分
<当時の出来事や世相を「12歳」の目線で振り返ります。ぜひ、ご家族、ご友人、幼なじみの方と共有してください。>
祖父の代から僕の家は和菓子屋をしているが、父は会社勤めで、店は祖父と僕の母が細々とやっている。そんな小さな店の土地を売ってくれという人が最近は後を絶たない。
父は売るべき、祖父は絶対に売らない、の一点張りで、2人の会話からは「億」という単位が普通に飛び出している。この辺り一帯をすべて買い取りたい人もいるらしく、5軒先の乾物屋は売ることにほぼ決めたそうだ。
そんなに高いなら僕も売ったらいいと思うが、今は土地の値段全体が急に上がっていて、別の場所に引っ越すにもそこの値段も高くなっている。何より祖父はこの場所で和菓子屋を続けていきたいのだと思う。
去年ぐらいから「空前の好景気」「史上最高の株価」とニュースでやっているが、僕にそんな実感はない。まんじゅうなんか少しも売れないのに、テレビでは贅沢そうなレストランの特集ばかりやっていて、夜のタクシーがつかえにくいなんていう話題もあった。
1月には六本木のディスコ「トゥーリア」で巨大照明が落下して、若者ら3人が死亡、大勢がけがをする事故があったが、世の中にあんな場所があることすら知らなかった。
3月には北海道と本州を結ぶ青函トンネルが、4月には四国と本州を結ぶ瀬戸大橋が開通、プロ野球のオープン戦に合わせて屋根付きの東京ドームも完成した。世の中はどんどん便利で快適になってきているが、青函トンネルができたことで、母の好きな石川さゆりさんの「津軽海峡・冬景色」に出てくる青函連絡船は廃止された。
競泳の鈴木大地選手が背泳ぎ100メートルで金メダルをとり、陸上100メートルを9秒97で走ったカナダのベン・ジョンソン選手がドーピングで金メダルをはく奪されたソウル五輪が開幕中の頃だった。
9月19日夜、天皇陛下が吹上御所で吐血されたというニュースを境に、この年の雰囲気はがらりと変わった。明治34年生まれの陛下は今年87歳。倒れられる前にテレビで最後に見たのは8月15日に日本武道館で行われた戦没者追悼式典だった。
この夏は梅雨明けも遅く、真夏日もほとんどない記録的な冷夏だった。壇上を歩く陛下のお姿はすごくゆっくりで、一緒に見ていた祖父は、その時からかなり心配していた。
全国に記帳所が設置され、僕も祖父と皇居でご回復を祈って記帳したが、世の中が次第に自粛ムードになっていくのは納得がいかなかった。国民が自粛したからってご病状がよくなるとは限らないし、どこかからの批判を恐れて、周りに合わせているとしか思えなかったからだ。
秋祭りやイベントが中止されたり、テレビも僕の好きなお笑い番組が突然放送されなくなったりした。歌手の井上陽水さんの車のCMなんて「口パク」になってしまい、学校でふざけてマネする子まで出たので逆に不謹慎な感じだった。
秋から年末にかけてのニュースは陛下の毎日のご体調とリクルート報道一色だった。必ず値上がりする株を政治家や官僚に配っていたという疑惑は夏ごろに比べてどんどん大きくなり、12月には宮澤喜一蔵相まで辞任した。今の土地の値上がりと一緒で、おカネのにおいがするところには、いろんな人たちが寄ってくるのかもしれない。
その一方で、国会では社会党などが反対していた消費税法案が通り、来年4月からは物を買えば一律に3%の税金がかかるそうだ。細かい小銭に無頓着な祖父なら、その分まけてしまいそうで心配になる。
だが、祖父は年末に倒れて、突然亡くなった。土地の問題で心労が続いていたのだろうか。陛下と同じ明治生まれだった。
祖父はその数日前、「こんな小さな土地に何億もの価値があるはずがない。日本中がおかしくなっている」と父に怒っていた。僕には正解はよくわからなかったが、明治生まれの人が言うことは重いような気がした。
大みそかは、祖父の遺影を飾ったままの居間で家族と年越しそばを食べた。この家で迎える大みそかは最後になるかもと思うとちょっとさびしかった。
テレビは意外にも普通で、「日本レコード大賞」はローラースケートを履いた光GENGIの「パラダイス銀河」が受賞、NHKの「紅白歌合戦」は北島三郎さんの「年輪」が大トリを務め、白組が勝った。陛下のご容態は一進一退のまま、除夜の鐘が鳴った。
◇
※後に「バブル景気」と呼ばれるようになった好景気は昭和61年暮れから平成3年初頭まで続き、株式や不動産を中心に資産が過度に高騰、当時、東京の山手線内の土地価格でアメリカ全土が買えるという算出結果が出るほどだった。バブル崩壊後は資産の大幅下落や巨額の不良債権問題が残り、日本経済は長期にわたって低迷した。
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