手探りの万博準備 「頂上」みえるところまできた 石毛博行・日本国際博覧会協会事務総長 あの日から⑤
産経ニュース / 2025年1月5日 17時0分
1周2キロ、高さ最大20メートル、圧倒的なスケールを誇る木製の大屋根(リング)に、独特な外観をした大小のパビリオン群-。昨年12月下旬、2025年大阪・関西万博の建設工事が山場となった会場の人工島、夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)を歩くと、「もう開幕だな」との思いが込み上げてきた。
万博開催はロシアとアゼルバイジャンとの誘致合戦を制し、パリの博覧会国際事務局(BIE)総会で18年11月に決定。決選投票で大阪開催が決定した瞬間は、現地で松井一郎・大阪府知事や吉村洋文・大阪市長(肩書はいずれも当時)が腰を浮かしてガッツポーズを取り、遠く離れた大阪のホールで中継を見守った関西財界も歓喜に包まれた。
経済産業省を経て、日本国際博覧会協会(万博協会)の事務方トップである事務総長に就任した石毛博行さん(74)は直前まで、日本貿易振興機構(ジェトロ)の理事長を務めていた。出張先のグアテマラで聞いた大阪開催決定の報に「良かったと率直に思った。他方、(準備の)大変さを必ずしも分かっていなかった」。
万博協会事務総長に就任した19年5月15日の記者会見では、「計画の実行に向け、一歩一歩積み上げたい」と表明した。経済界からは「国際交渉などの経験から(海外に)豊富な人脈があり、国内産業の状況もしっかり理解している」との評価もあった。
この日から、ときに「山登り」に例える万博準備の苦難が始まった。
「万博の事務方責任者として取り組むことになったことが、自分にとってエポックメーキング(画期的)で重要なポイントだった」
万博の準備は、全てが平らな一本道で進んできたわけではない。会場デザインは、誘致時の計画では「非中心・離散」をコンセプトにあえて1970年大阪万博の「太陽の塔」のようなシンボルを設けず、「多様性」を表現する方針だった。
だが、2020年12月に発表した基本計画では「非中心・離散」のパビリオン配置を踏まえながら、新型コロナウイルス禍や紛争で分断された世界を、大屋根で再び一つにつなぐ「多様でありながら、ひとつ」の理念を表現する会場デザインとなった。
一方で、万博協会として万博開催に必要な会場建設費を初めてしっかりと見積もったところ、当初の約1250億円から約1850億円に増額せざるを得なかった。その後の物価・賃金の上昇により、最終的に当初比約2倍の約2350億円まで膨らみ、運営費も同約1・4倍の約1160億円となったことで、半年間のイベントに「無駄遣いではないか」との批判が渦巻いた。
重要な〝スポンサー〟である地元財界からも厳しい指摘を受けることもあったが、話し合いを重ね、万博成功に向けて万博協会と政財界は一枚岩になれたといえる。
日本での大規模な万博は1970年の大阪、2005年の愛知があるが、継続して関わり、ノウハウを持っている人もいない。「全てが手探りだった。それをさまざまなステークホルダーと相談し、考えながら進めてきた」と振り返る。
開幕1年前となった24年4月のインタビューに「これからさまざまな課題が具体化し、山登りに例えると急峻(きゅうしゅん)なコースに入ってくる」と答えた。実際、同年は海外パビリオンの準備の遅れが顕著となり、さらに国内情勢により撤退する国もあって対応に心を砕いた。
年が明け、万博は4月13日に開幕を迎える。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、国内の万博で過去最多の約160カ国・地域が参加。半年の会期中、世界中から計約2820万人が来場する想定だ。
「万博はかなり頂上が見えるところまできた。いつの時代も万博は世界を見せ、未来を見せるものだ。コロナ禍や世界の分断の深刻さを経験した今の時代に、日本が主催して行うことは大きな意義がある」(井上浩平)
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