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人間の基礎的知性は活字で磨かれる 欧州は新聞の公共性認識してきた 渡辺恒雄さん(2) アーカイブ「活字文化考」

産経ニュース / 2024年12月28日 12時0分

読売新聞の渡辺恒雄社長=平成7年9月21日

――新聞社は明治以来、公共性を認められて事業税が非課税扱いだったという話でしたが。

渡辺 明治から今日まで日本人の識字率が非常に高いのは、普通教育の徹底と宅配の新聞の二つによるものだということを明治の政治家は理解しておった。だから、新聞に対する事業税を非課税にしたんだと思うんですね。そういう観点を最近、政府の一部で変えようとする動きがあったということです。新聞が戦時中のような御用新聞じゃなくなって、健全な機能を発揮して政府を批判するものだから、それを快く思わない政治勢力が新聞に課税してしまえと考えたのかもしれません。

ヨーロッパには付加価値税がありますが、イギリスは新聞・書籍はゼロ税率。フランスでは新聞は二・一%、書籍は五・五%、ドイツは七%。付加価値税の標準税率はイギリスが一七・五%、フランスが二〇・六%、ドイツが一五%でしょう。そのなかで新聞に対してはゼロ税率、もしくは軽減税率を適用している。ヨーロッパ各国の政府は、歴史的に新聞の公共性に対する認識を持ってきたということなんです。

ところが、日本では新聞社の事業税も全面課税にするし、今度は再販まではずして、経営の基盤を脅かそうとしている。もっとも、これは政府全体じゃないですよ。いまは「中間報告」を書いた学者がそう考えているだけの段階だが。僕は公取委が純粋に考えれば、あんなばかな中間報告は認めるわけはないと信じてますからね。

――新聞は政府に対して「規制緩和をやれ」と主張しています。

渡辺 政府の行政改革委員会はいま「両論併記でみなさん考えてください」といっている段階であって、ほかに緩和しなきゃならない規制が山ほどある。そんなときに、なぜ著作物を先に取り上げるのか。僕は政府の行革委が、新聞・出版物の再販廃止で規制緩和の大きな柱ができた、なんていう認識は全く持たないと信じてますよ。それから、行革委のなかに、大きな声で新聞に対する敵意を振りまいている人が一人いて、これが行革委全体の傾向みたいに誤解されている面もある。

――新聞の再販維持の理由の一つに、「活字文化を守るためにも再販は必要だ」という論があります。

渡辺 活字文化というものは、人間の教養の一番基礎的なものでね。たとえば電卓が発達したから子供たちに算術や数学の基礎知識を教える必要はないというのは正しいかどうか。いかに電卓が発達し、コンピューター時代になっても、基礎的な数学理論は、初等教育できちっと教えておかないと将来の科学技術の進歩はないんです。

それと同じように活字文化は、初等教育の段階から徹底的に教え込まないと、マルチメディア時代になると、マルチメディアに人間の精神自体がのみ込まれちゃって人間性を失った人間が大量に輩出してくるようになるだろうと思いますよ。ドストエフスキーの「罪と罰」、ゲーテの「ファウスト」、あるいはカントの「純粋理性批判」でもいいんだけれど、これをパソコンで読めますか。これは活字じゃなきゃ読めないんですよね。人間の一番基礎的な知性は活字文化によって磨かれるんですよ。マルチメディアもバーチャルリアリティー(仮想的な現実)を使って教育効果を上げることは十分できますが、基礎として活字文化が全くなかったら、あらゆる文化も発展しない。 (文化部長 小林静雄)

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