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東日本大震災で避難してきた動物たち 妊娠後期できたゴマフアザラシの出産に立ち会う 話の肖像画 鴨川シーワールドの獣医師・勝俣悦子<22>

産経ニュース / 2025年12月23日 10時0分

東日本大震災で被災したセイウチを搬入(鴨川シーワールド提供)

《勝俣さんの獣医師としての仕事は、鴨川シーワールドにとどまらない。平成23年3月11日の東日本大震災発生後、アクアマリンふくしま(福島県いわき市)から被災した海獣たちが避難してきた》

アクアマリンがロシアから搬入したセイウチの子供「ゴオ」と「ミル」をアクアマリンがオープンする前に預かったことがあるなど縁があったので、震災発生後、セイウチが心配で当時の荒井一利館長に「セイウチは大丈夫だろうか」と話しました。「ひれあしマニア」の荒井さんは、19~28年に当館の館長を務め、日本動物園水族館協会(JAZA)の会長も務めました。

当館でもアシカやアザラシの展示場で擬岩が崩れたりしましたが、幸いにも甚大な被害はありませんでした。一方でアクアマリンは大津波の被害を受け、施設がもう使えない状態になっていたので、海獣たちが避難してくることになりました。

3月16日午前5時、荒井館長の指示で、当時副館長だった夫と鰭脚(ききゃく)類課長の中野良昭さん(現・神戸須磨シーワールド館長)らが、海獣を運ぶための移動檻(おり)や薬、アクアマリンで被災した職員のための食料などを積み、大型トラックでいわきへ向かいました。悪路のうえ、地震や津波ですっかりおびえてしまった海獣たちを檻に入れたりするのにも時間がかかったようで、戻ってきたときには夜中の0時をまわっていました。

まだ運びきれていない動物がいたので、とんぼ返りで輸送隊がいわきに向かいます。2回の輸送でゴマフアザラシ2頭、セイウチ2頭、トド3頭、そして鳥類などを輸送しました。当館の施設以外に、荒井館長の事前の手配で上野動物園(東京都台東区)、葛西臨海水族園(江戸川区)、新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)、伊豆・三津シーパラダイス(静岡県沼津市)などへ分散させました。

被災した海獣の中でもとりわけ心配されたのが、妊娠中だったゴマフアザラシの「くらら」です。輸送前に檻の床面が濡(ぬ)れていて、破水したかもしれないとのこと。到着後すぐに確認しました。どうやら破水ではなく、色の濃いおしっこが出たようでした。くららは当館の個室に搬入して安静を保ち、気づかれないようにテレビモニターでの「ワッチ」(観察)を続けました。

《震災翌月の4月7日、くららは鴨川シーワールドで無事に子供を産む》

くららは妊娠後期に輸送するという過酷な状況でしたが、アクアマリンの飼育係が鴨川に駆けつけて世話をしてくれて、餌を食べるようになりました。横向きに寝ているくららの下腹部を見ていると、中で赤ちゃんがもぞもぞと動いている胎動が分かります。

4月4日、食欲がなくなるなど出産が近い兆候が見られました。7日午後、中野さんが「くららが落ち着けるように」と室内の明かりを暗くした、その1時間後です。産毛におおわれたぱっちり黒目の赤ちゃんが誕生しました。

中野さんと一緒に取り上げて様子を見ると、赤ちゃんは元気そうです。体長は約80センチ、体重約10キロ。くららは初産でとまどっていましたが、しばらくすると赤ちゃんにお乳をあげ始めたのでひと安心です。

くららと赤ちゃんは6月26日、アクアマリンへ戻り、赤ちゃんは「きぼう」と名付けられました。名前は当館とアクアマリンで一緒に考えたものです。くららはその後、2番目の赤ちゃんを産み、「みらい」と名付けられました。みらいは26年、「ブリーディングローン」(繁殖のため、「本籍」はそのままに水族館や動物園で動物を行き来させる仕組み)で当館へやってきて、昨年3月にオスの赤ちゃんを産みました。(聞き手 金谷かおり)

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