1日で新書判1冊分の情報量、タマゴと新聞ぐらい安い商品はない 渡辺恒雄さん(12) アーカイブ「活字文化考」
産経ニュース / 2024年12月30日 14時0分
――新聞の購読料についてはどのように認識されてますか。
渡辺 非常に安いと思います。朝夕刊五十六ページの一カ月分の紙代だけでも千三百円もします。これは(輪転機にかける)巻き取り紙で大量購入した値段だ。
そのうえ、新聞一日分に新書判一冊以上の文字が印刷されて、それだけの情報が入っているんです。その情報の価値は相当なもので、日本で何が安いといったって、タマゴと新聞ぐらい安い商品はないと思うな。
――購読料を安く抑えて広告で営業の収支のバランスを取る新聞経営のやり方は、やむを得ないんでしょうか。
渡辺 アメリカでは七割から八割が広告ですよ。みんな地方紙だから、日本の折り込み広告みたいなものは、全部新聞広告として新聞のなかに入っている。同時に新聞広告が流通マーケットになっているんですよ。
たとえば、日本では考えられないことですが、夜十時か十一時にコンビニに行くと行列ができている。何かというと、夜中に配られてくる翌朝の「ワシントン・ポスト」早版を買うためなんです。広告がマーケットになっていて、「自動車、何年製のマスタング、マイレッジ・何万マイル」といったような三行広告が出ている。テレビの場合もあるし、電気洗濯機の場合もある。
それを見て翌朝、買いたい人が売りたい人に電話をかけるんです。ディーラーを通じないで直接に交渉するんですね。その情報を早く取らないと取引に遅れるから、夜中に行列するわけです。新聞広告が取引の場になっている。広告の質が日本とかなり違うんです。
――生活情報そのものですね。
渡辺 広告が七割、八割で、広告のなかに記事がちょろちょろと載っている。一面に前書きだけあってプツンと切れて、「三十八ページへ続く」。三十八ページを見ると、広告だらけのなかに一段の記事がある。それを読まなきゃいかんから、スクラップするのに苦労した経験がある。広告というもののあり方が日本の新聞とアメリカの新聞でまず違う。
それから、日本の新聞は広告が五割以上のスペースを占めてはならないというおきてがあるんですな。このおきてを管理しているのは郵政省です。その第三種郵便物として一番多く郵送しているのは北海道新聞で三%ぐらい。読売の場合は〇・五%もないんじゃないですか。
にもかかわらず、なぜ第三種郵便物の認可を取らないといけないのか。公選法のなかに、選挙情勢を報道する要件として、第三種郵便物であることと規定している。発行(創刊)後六カ月以上というのもある。その第三種郵便物を認可するのは郵政省の事務当局ですよ。認可条件のなかに、省令か通達だと思うけど、広告のスペースは五〇%以上あっちゃいけない-となっている。
だから、アメリカの新聞が日本に来て、アメリカの方式でやろうとしたら全部倒産してしまうわけですよ。こういう規制こそ排除しなさいと、公取委の中間報告には何も書いていない。一行も。それで再販のことばかりいっている。
あの人たち(再販問題検討小委の学者グループ)が、いかに新聞を知らんかということの一つの例ですな。 (文化部長 小林静雄)
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