悩ましい「家じまい」、持ち主が元気で判断力があるうちに家族で着手を 100歳時代の歩き方
産経ニュース / 2024年11月3日 9時0分
家を処分する「家じまい」は、高齢者や家族にとって悩ましい問題だ。手間や時間がかかるほか、家族がいれば話し合いが必要になる。思うような金額で処分できないケースもある。専門家は、持ち主が元気で判断力があるうちに家族で検討を始めることを勧める。
横浜市に住む80代の女性は昨年、約40年間住んだ2階建ての自宅を売却し、家じまいをした。家族4人で住んだ自宅は子供が巣立ち、夫に先立たれ、1人暮らしになっていた。
「階段の上り下りが大変だったし、一軒家での高齢者の1人暮らしは防犯も心配だった」と、数年前に売却を考え始めた女性。子供家族との同居や高齢者施設への入所など、売却後の生活を検討するなか、転倒でけがをしたことを契機に本格的に家族と話し合いを開始。長女の家の近くの賃貸マンションに移ることを決めた。
売却は不動産仲介を利用。1年かかったが、ほぼ希望額の約3000万円で売ることができた。家族の協力を得ながら家財を減らし、葬儀会社に頼んで「仏壇じまい」も済ませた。「判断力があって、元気で動けるうちに進めることができてよかった」と女性は振り返る。
戸建て住宅大手、オープンハウスグループと住宅情報サイトなどを運営するLIFULL(ライフル)が共同で今年7月に行った調査によると、家じまいや子供らによる実家じまいの経験者が売却した際に苦労したことや後悔したことは、「思うような価格で売れなかった」(39.1%)が1位。次いで「依頼する不動産会社を複数しっかり比較しなかった」(26.7%)だった。いずれも検討する時間が少なかったことも一因と考えられる。
直接買い取りを行うオープンハウス・ディベロップメントの山田拓弥さんによると、同社に住宅や土地を売却した人の4割が相続関連で、うち7割がすでに空き家だったという。家族が相続税を支払うために家の売却を考えた場合、相続税の申告・納付期限は持ち主の死亡を知った日の翌日から10カ月以内だ。山田さんは「検討期間は少なく、大変なことが多い。売却を考えているなら、持ち主が判断できるうちに、早めに検討することが重要だ」と指摘する。
また、「相続の手続きが終わらないまま続けて相続が発生した『数次相続』や、抵当権が残ったままの家」(山田さん)などは手続きに時間がかかる。固定資産税の明細や、自治体から名寄帳を取り寄せるなど、書類をそろえておくと、不動産会社の調査などに活用できるという。
相続した土地については昨年4月、「相続土地国庫帰属制度」が始まった。負担金を納めれば土地を国庫に譲ることができる。ただ、審査がある上、家などの建物があると対象外なので撤去費用がかかる。
持ち主が元気なうちに自身の家じまいの検討を始めても、欠かせないのが家族間の話し合いだ。持ち主の意向だけで家じまいを進めた結果、後になって子供が「勝手に家を売ってしまった」と言ってくるなど、家族間でトラブルになるケースは少なくないという。山田さんは「必ず家族会議をしていただきたい」と話している。
その「後」のことも考えて
持ち主が家じまいした後の選択肢を考えるのも終活の一つだ。
冒頭の女性は、子供の家の近くの賃貸マンションに移るという「近居」を選択した。子供家族と同居したり、二世帯住宅を建てたりする人もいる。
自宅を売却して高齢者施設に入所するケースもある。ただ、終活・相続コンサルタントの田和真由美さんは「人によっては、人間関係や生活スタイルの違いなどで、その施設が合わないと感じることもある」と指摘する。そのため売却せずに、在宅介護で自宅で最期を迎える選択肢もあるという。
田和さんは「選択肢やメリット、デメリットについて、早くから家族と話し合い、専門家に相談してほしい」と呼びかけている。(本江希望)
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