突き返した「角さん」の100万円 インタビューの「面白い部分」は本人に削られて 話の肖像画 ジャーナリスト・田原総一朗<20>
産経ニュース / 2024年10月21日 10時0分
《首相退任後も「目白の闇将軍」として、政界を牛耳っていた田中角栄氏(※1918~93年。首相在任は昭和47~49年)。田原さんは、ロッキード事件の「真相」について雑誌にリポートを書く(『アメリカの虎の尾を踏んだ田中角栄』、51年)。それがきっかけとなって、55年、〝角さん〟へのインタビューが実現する》
(角さんは)首相を退任し、ロッキード事件で逮捕された(51年7月)。メディアの取材には、ずっと応じてこなかったのだけれど、どうやら僕の文章(『アメリカの…』)を読んでくれていたらしい。ダメ元で、月刊誌の取材としてインタビューを申し込んだら、OKが出た。55年の暮れのことです。
場所は、〝目白御殿〟と呼ばれた豪邸。雑誌の編集者と一緒にうかがうと、かなり長い間、待たされました。「まだですか?」と聞くと「いま田原総一朗の資料を読んでいる」という。驚きましたね。話を聞く(インタビューする)のは僕の方なのに、相手が僕のことをみっちり調べているのだから…。
思えば、そういうエピソードがいっぱいあった。六法全書を暗記していた。各省庁の役人の入省年次やポストのみならず、結婚記念日や家族の誕生日まで記憶して気配りを欠かさず、官僚をコントロールした。政策に精通し、33本もの法案を議員立法で成立させた―などなど。
やっと現れた後は、冗舌にいろんなことを話してくれましたね。オールドパーを飲みながら、インタビューは4、5時間にも及んだかな。
ところが、ゲラを見せた後、「面白い部分」が本人によってばっさり削られてしまった。残念だったけどしようがない。話した本人が「載せたくない」って言うんだからね。あえてケンカはしなかった。もちろん〝この部分〟はいつか改めてインタビューして書くつもりだったけど…実現しませんでした(※58年10月、田中元首相は、ロッキード事件公判の1審で実刑判決を受けた。60年2月には、脳梗塞に倒れた)。
《インタビューの後、角さんから1センチほどの封筒を渡された。現ナマらしい》
100万円は入っていたと思う。正直、困った。ただ、この場で突き返すのはさすがに失礼だと思い、その足で(東京都千代田区)平河町の田中事務所へ駆け込み、早坂(茂三)秘書に「返したい」と話したんですよ。だが、早坂秘書は「そんなことをしたらオヤジ(角さん)は激怒する。明日から永田町で取材ができなくなるぞ。自民党だけじゃない。野党もだ」と引かない。結局、何とか、封筒は置いてきたんですが。
すると、何日かたって早坂秘書から電話があった。「オヤジが(返却に)OKしたよ」と。このことをきっかけにして胸襟を開くようになり、田中サイドとも縁ができたんです。
それだけじゃない。僕は一切、政治家からカネを受け取らなかった。「角さんからも受け取らなかった」と言えば、皆納得してくれるでしょ。(ある官房長官側から)1000万円ものカネを渡されたことがあったけど、地元の事務所まで返しに行った。その人も後にカネを受け取らなかったジャーナリストは「田原総一朗だけだ」とはっきり認めてくれたしね。
《政治家・田中角栄についての著書(『大宰相 田中角栄』など)もある》
(角さんは)構想力やアイデアがすごかった。アメリカから自立しようとして(ロッキード事件で)潰されたんだけれど、アメリカも後悔しているんじゃないかな。田中政権が続いていれば、日本を抜本的に改造したかもしれません。(聞き手 喜多由浩)
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